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戦国異伝

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第七十一話 羽柴秀吉その七


 それ故の断言だった。そしてその断言のうえでだ。
 彼は前を見た。そのうえで周りの家臣達に話したのである。
「義兄上は間違いなく天下の英傑じゃ」
「では。その織田殿ならば」
「上洛もですか」
「成し遂げられますか」
「むしろ義兄上にとってはじゃ」
 どうかというのだ。信長にとっては。
「ほんの通過点であろうな」
「上洛してですか」
「都を手中に収められるのがですか」
「それがほんの通過点ですか」
「織田殿にとっては」
「義兄上はそれだけ大きなものを目指されておるのじゃ」
 そしてその目指すものがだ。何かというのだ。
「天下布武じゃからな」
「天下統一ですか」
「その前には都を手中に収めることなぞですか」
「ほんの些細なことでございますか」
「そうであろう」
 長政はまた己の家臣達に述べた。そのうえでだ。
 遠くを見る目になりだ。そこにある遥かなものを見て述べた。
「わしは天下なぞ考えたこともない」
 こう述べたのである。
「近江の北、浅井の家を守ることだけを考えておる。今もじゃ」
「しかし織田殿は天下を考えておられた」
「今もですか」
「そうじゃ。器が違う」
 唸る様な言葉だった。まさにだ。
 その唸る様な言葉でだ。次に出した言葉はというと。
「わしはとてもじゃ」
 だが、だった。それでもだ。
 彼にも自負はある。そしてその自負に基いてだ。こうも言ったのだった。
「だがそれでも浅井の家は何としても守る」
「はい、その殿だからこそです」
「我等も共に戦えます」
「今もこうしてです」
「そうできます」
「済まぬな。わしなぞにそこまで忠義を見せてくれて」
 そのこと自体が有り難かった。それでだった。
 長政はその彼等に対して微笑みだ。そうして言ったのである。
「わしはこれからも天下を望まぬ」
「浅井の家を守ることをですか」
「それを望まれるのですか」
「そうじゃ。わしにとってはそのことの方が大きい」
 まさにだ。そうだというのだ。
「天下なぞそもそもわしには合わぬか」
「合いませぬか」
「天下を望むこともまた」
「わしの頭の中にあるのは民達と浅井の家だけじゃ」
 家には家臣達も含まれる。そうなのだ。
 それでだ。彼にとっては天下はというのだ。
「そこまで大きなものが手に入ってもそれでもじゃ」
「それでもですか」
「うむ。手に余る」
 そうだというのだ。
「だから天下ではなく浅井の家のことを考えるとしよう」
「それもよいですな」
 浅井の家臣の中でも重臣の老人が述べた。磯野員昌である。
 磯野はだ。微笑みそのうえでだ。長政に対して話すのだった。
「誰もが天下を目指すというのもまた騒がしいものでございます」
「わしの様に小さなものを守ろうとするのもよいか」
「殿にとっては大切なものならばいいかと」
 あえて小さなものとは言わずにだ。磯野は長政に話す。
「そう思います」
「ならよいがのう」
「そして殿は今はですな」
「織田殿と共に」
「うむ、そうする」
 徳川家と共にそうするというのだ。こう己の家臣達と話してだ。
 その後でだ。彼の傍らに黄色い具足と陣羽織の一団が来た。藍と黄が彼等を境にして左右になる。その黄色い軍勢の軸の部分にいるだ。その彼が長政に声をかけてきた。 
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