戦国異伝
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第七十一話 羽柴秀吉その六
しかしだ。六角はここでだ。釈然としない顔を見せた。そのうえでだ。
己の家臣達にだ。こう言ったのである。
「しかしじゃ」
「三好殿ですか」
「三人衆のお歴々ですな」
「松永殿もじゃがな」
彼の名も挙げるのだった。そのうえでのことだった。
「やがて成敗せねばな」
「はい、義輝様を殺しました」
「このことは決して忘れてはなりません」
「例え何があろうとも」
「その通りじゃ。何時かは成敗する」
三人衆も松永もだと。六角は険しい顔で家臣達に話す。
「公方様を殺めるとは。許せぬ」
「左様です。やがてはです」
「大逆の罪を裁きましょう」
「我等が」
「そのことは忘れるでない」
また言う六角だった。
「決してな」
「承知しております」
家臣の一人が応える。そうしてだ。
他の者達もだ。真面目に主に言うのだった。
「我等もです。決してです」
「足利将軍家への忠誠は忘れません」
「それでよい。では織田信長を迎え撃とうぞ」
そのことを決めてだ。そうしてだ。
六角はふと城の外を見た。そこには琵琶湖が広がっている。
その青い静かな水面を見つつだ。彼は言った。
「この琵琶湖が一方にありじゃ」
「そして周りに多くの支城がありですな」
「本城自体が堅固であるこの観音寺城は容易には陥ちませぬな」
「少なくとも三好殿が来られるまではもつ」
六角は絶対の自信を持っていた。己の城の守りに。
それ故にだ。どうするかというのだった。
「篭城すれば何の問題もない」
「はい、ではこのまま」
「篭城を進めましょう」
「織田信長はおそらくうつけではない」
彼にしてもだ。この考えに至っていた。
「中々の傑物。戦も強い」
「しかしですな」
「それでもこの観音寺城は陥とせませぬな」
「そういうことじゃ。この城は誰であろうが陥とせぬ」
六角の自信は揺るがない。信長に負ける気はしなかった。
その話をしてだ。家臣達に戦の用意をする様にだ。あらためて命じたのである。
六角が戦の用意を進める中でだ。信長のところには。
次から次にだ。近江の南にいる国人達が下ってきていた。その彼等に対してだ。
信長はそのまま所領を認めそのうえで織田家に組み入れていく。その彼を見てだ。
長政はだ。唸る様にしてだ。こう己の家臣達に言ったのだった。
「見事じゃな」
「はい、六角の国人達も組み入れてです」
「戦をせずに順調に進んでおります」
「これは予想外です」
「流石と言うべきか」
長政の唸る様な言葉は変わらない。
その声でだ。こうも言うのだった。
「観音寺城までは一戦もせずに済むな」
「そしてですか」
「そのうえで」
「観音寺城に迫りますな」
「うむ。しかしあの堅城もじゃ」
並の者はここで信長は城を陥とせないと言うところだ。しかしだ。
長政はだ。義兄の力量を知っているからこそだ。こう言うのであった。
「楽に陥とされるであろうな」
「あの天下の堅城もですか」
「信長殿はそうされますか」
「陥とされますか」
「できる」
断言だった。それだけ信長の資質を見ていたのである。
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