久遠の神話
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第三十二話 相互理解その七
「それ故にだ。俺は戦う」
「まあなあ。俺も目的があるしな」
「ではまたな」
「ああ、またな」
二人でそれぞれのコーヒーの最後の一口を飲んでだ。それからだった。
二人は店を出て別れた。そうしたのだ。
広瀬は店を出て少し歩いた。その彼の横にだ。
何時の間にか聡美が来ていた。聡美はこう彼に言ってきた。
「中田さんと御会いしていましたね」
「見ていたか」
「見るつもりはありませんでした」
目を伏せてだ。聡美はこう話した。
「このことは申し訳ありません」
「別にいい。俺も見るなとは言っていない」
「だからですか」
「そのことはいい。しかしだ」
「私が貴方の横に来た理由ですか」
「君は戦いのことを知っている。そして君が今俺の前に出て来たということは」
「出て来ます」
聡美は広瀬に言った。
「間も無く。この場に」
「そうか。やはりな」
「怪物が出て来ます」
出て来るのは剣士ではなかった。そちらだというのだ。
「どうされますか」
「確かに俺は人間同士の戦いはできるなら避けたい」
中田に言った通りだった。このことは。
だがそれでもだとだ。彼はこうも言った。
「しかし怪物相手ならだ」
「避けませんか」
「そのまま戦う。どの様な相手でもな」
「わかりました。では頑張って下さい」
「それでどういった相手だ」
「間も無く前に来ます」
その相手がだ。そうしてくるというのだ。
「ではですね」
「俺は戦う」
広瀬が言うとだ。その瞬間にだ。
彼は右手に己の剣を出した。そしてだ。
その彼の前に怪物が出て来た。その怪物はというと。
「これは」
「御存知でしょうか」
「蜘蛛だな」
紫の巨大な蜘蛛だった。大きさは人の三倍程はある。
その禍々しい紫の斑模様の八本脚のそれを見てだ。広瀬は言った。
「アルケニーか」
「やはり知っていますか」
「アテナにより蜘蛛に変えられた娘だな」
「はい、そうです」
「まさかな。ここでこうして会うとはな」
「無論彼女自身ではありません」
本人ではないというのだ。そのアルケニー自身とは。
「やはりコピーです。力を模したものです」
「オリジナルではないか」
「ですがそれでもです」
「力は同じか」
「その通りです」
まさにそうだとだ。聡美は広瀬に話す。
「そしてその力ですが」
「かなりのものだな」
「おいそれと勝てる相手ではないです」
「伊達に神と競った訳ではないか」
「それこそテューポーンとエキドナの間に生まれた怪物達と同じだけです」
それだけの強さがあるというのだ。
「簡単に勝てはしません」
「そうか。しかしだ」
「闘われますか」
「闘う」
まさにそうするとだ。広瀬は聡美に素っ気無く返した。
そのうえで右手に持っている剣を構えてだ。こう言うのだった。
「怪物相手なら何の躊躇もない」
「人と戦うのとは違って」
「感じているのか」
「貴方も。やはり」
「しかし。俺は戦う」
人間に対してもだ。そうするというのだ。
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