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久遠の神話

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第三十二話 相互理解その一


                          久遠の神話
                      第三十二話  相互理解
 マジックの二人用の席に向かい合って座りだ。そのうえでだ。
 中田はコーヒーとチョコレートケーキを前にしてだ。まずはこう言った。
「喫茶店にいるとな」
「何かあるか」
「いや、一人でいることが多かったからな」
「これまではか」
「ああ、あんたは違うみたいだけれどな」
「俺はいつもだ」
「彼女と一緒だってか」
 少し軽い笑みになってだ。中田は広瀬に言った。
「だから喫茶店にはか」
「そうだ。一人で行くことも殆どなかった」
「彼女ができてからだよな」
「高校一年の頃だった」
 その頃にだ。話はさかのぼるというのだ。
「その頃も俺は乗馬部だった」
「乗馬部?ああ、そうだな」
 乗馬部と聞いてだ。中田はすぐに察した。その察したこととは。
「あんたも八条学園からだったな」
「高等部から大学に進学した」
「だよな。うちの学園は高等部にも馬があるからな」
「中学までは陸上部だったが高校から乗馬をはじめた」
「で、その乗馬部でか」
「あの娘はマネージャーだった」
 それが由乃との出会いだったというのだ。部員とマネージャーとしての関係からだったというのだ。
「最初はただそれだけだった」
「けれど一緒にいるうちにか」
「仲がよくなってだ」
「成程な。いいことだな」
「いいことか」
「学生らしい交際でいいんじゃないのか?」
 コーヒーカップを右手にだ。中田は笑って述べた。
「そういうのも」
「君はそういう考えの人間だったんだな」
「そういう考え?」
「砕けた人間なのはわかっていた」
 中田のその飄々として軽い感じの性格をだ。広瀬はこう表現したのだ。
「だがそれ以上にだ」
「俺はっていうんだな」
「そうだ。君は交際についても理解があるか」
「彼女とかはいたことないけれどな」
 だがそれでもだとだ。中田は広瀬に笑ってみせながら話していく。
「わかってるつもりさ」
「俺があの娘と交際していいか」
「っていうか駄目っていう話あるのかよ」
 中田は逆にだ。広瀬にこう問い返した。
「そんなのあるか?」
「君の考えではないか」
「まさか中世の欧州みたいに身分違いの恋とかな」
 中田は笑いながらまずはこのことを言ってみせた。
「それかロミオとジュリエットとかな」
「またロマンチックな話を出してくるな」
「そういうのか?シェークスピアみたいな状況でもあるのかよ」
「そうだな」
「あるのかよ」
「君は恋に確かなものがあると思うか」
 広瀬はこれまで自分が持っていたコーヒーカップを置いた。そしてだ。
 そのうえでだ。こう問うたのだった。
「それはどうだ」
「確かなものか」
「二人の間は確かでもだ」
「周りか」
「その君が言ったシェークスピア、ロミオとジュリエットだが」
 あまりにも有名な古典である。それこそ知らぬ者がないまでの。
「二人は確かに愛し合っていたな」
「ああ。これ以上はないまでにな」
「しかし悲劇に終わったな
「家と家がな。宿敵同士だったからな」
「その為に二人は結ばれたが」
「あの結末だったな」
 悲劇、それに終わったというのだ。
「俺これでもシェークスピアは好きでな。読んでるんだよ」
「ロミオとジュリエットもまた」
「ああ、読んだよ」
 読破したというのだ。 
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