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戦国異伝

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第六十五話 飛騨からの使者その十


「では武田だけじゃ」
「あの甲斐の虎ですか」
「あの家ですか」
「そうじゃ。あの家じゃ」
 この家とだ。織田こそが問題だというのだ。
 その織田についてだ。氏康はさらに話していった。
「これでさらに近畿、三好が分かれた後なりを攻めればじゃ」
「さらに、しかも容易に強くなる」
「左様ですな」
「そうじゃ。二百万石はおろかじゃ」
 これでも相当なものだがさらにだというのだ。
「三百万、四百万とじゃ」
「力を蓄えていきますか」
「そこまで」
「そうなれば最早織田を止めることはできぬ」
 氏康の目が鋭くなる。
「どの家にもな」
「そうして天下統一ですか」
「そこまでになれば」
「まあ暫く時間がかかるにしてもじゃ」
「治めることにですか」
「それでも」
「おそらく決まる」
 氏康は言い切った。そうだとだ。
「四百万石位になれば対する家はなくなる。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「一つの家では無理じゃ」
 こう言うのだった。ここではだ。
「多くの家が合わさればどうじゃ」
「戦えますな、それでは」
「対することができます」
「その通りじゃ。できる」
 氏康のその声がさらに強いものになった。
「そうすればだな」
「確かに。どれだけ強くともですな」
「多くの家が手を組めば織田に対することができる」
「一つの家では無理でも」
「ではよいな」
 氏康は家臣達に問うた。
「その時にはな」
「はい、武田や上杉と共にですな」
「織田と戦う」
「そうすると」
「あと。東北じゃな」
 氏康の視野は広かった。その地域も見ていた。
 そしてだ。その東北のこともここで話したのである。
「その東北じゃがやはり伊達が妙に強いか」
「はい、最早破竹の勢いです」
「周りを次々に倒して勢力を拡大しております」
 まさにそうだとだ。家臣達も述べる。
「このままでは蘆名や最上ともぶつかるでしょう」
「そうなればかなり大きな戦になると思いますが」
「東北も騒がしくなってきたのう」
 氏康はこうも述べた。
「もし蘆名が倒されれば佐竹ともぶつかるな」
「あの鬼とですか」
「伊達が戦いますか」
 佐竹の主は佐竹義重という。またの名を鬼義重という剛の者だ。佐竹の勢力も強く北条にとっても油断のならない相手である。
 だがその佐竹と伊達がぶつかることにはだ。氏康はこう言うのだった。
「伊達は脅威じゃな」
「佐竹とぶつかってもですか」
「それでもなのですか」
「あの伊達政宗という男野心の塊の様じゃ」
 政宗の野心を見抜いてなのだった。氏康は言うのである。
「それに対して佐竹は野心がない」
「確かに。ただ己の領地を守りたいだけです」
「野心はございませぬ」
「その通りじゃ。佐竹には野心はない」
 野心に満ちている伊達と対してだというのだ。 
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