久遠の神話
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第二十七話 愚劣な駒その九
聡美に高橋と共に船から離れつつだ。こう話すのだった。
「船は金と技術で造ることはできるがだ」
「軍人はですか」
「自衛官はそう簡単には作ることができない」
人材はだというのだ。
「優れた人材はな」
「そうなのですか」
「そしてだが」
「そして?」
「剣士もだな」
工藤は剣士、他ならぬ彼等のことにも言及した。
「おいそれとは出来上がりはしないな」
「その通りですね。ですから」
「インスタントの剣士はできない」
壬本のことをだ。ここでも言ったのである。
「剣士は。それぞれ選ばれるのだな」
「そうです。何かによって」
このことは言わなかった。その何かが何であるかはだ。聡美は隠したのだ。
「しかしです」
「剣士になりそこから戦いだな」
「強くなっていきます」
「選ばれるだけでは駄目か」
「そこからまたです」
強くなっていくものがだ。剣士だというのだ。
「ですから。その方の様にです」
「いきなり力を与えられてもか」
「過ぎたる力は爆弾です」
それだとだ。聡美は答えた。
「必ずや己を破滅に導くものです」
「そうだな。では彼は」
「はい、そうなります」
破滅する、そうなるというのだ。
「必ずです」
「じゃあ彼は」
高橋も言ってきた。ここでだ。
「いずれはですか」
「間も無くだろうな」
「破滅しますか」
「頭もかなり悪い様だしな」
工藤はこのことも察していた。壬本がかなりの愚か者であることも。
「破滅する。確実にな」
「では」
「彼はどうしようもない」
工藤は壬本をこう言って切り捨てた。
「救われる筈もない」
「救いの手を差し伸べてもですね」
「それに気付かない。だからだ」
「彼はあのまま見捨てて」
「そうするしかない人間もいることも確かだ」
あまりにも愚かで人格が卑しい為にだ。そうするしかない相手もいるというのだ。
「だからいいな」
「わかりました。それじゃあ今度会ったら」
「軽く攻撃を仕掛けてだ」
そしてだというのだ。
「逃げるに任せればいい」
「後は何らかの経緯で」
「勝手に破滅する」
「俺達が手を下すまでもないですか」
「愚か者は勝手に破滅する」
工藤は自分がそうするまでもないというのだ。
「放っておけばいい」
「ですか。それにしても工藤さんは」
「今回は冷たいか」
「そう思うんですけれどどうしてですか?」
このことをだ。高橋は気になって問うたのだ。
「彼に関しては随分と」
「本当にどうしようもない人間だからだ」
「それで、なんですか」
「救われない人間もいる」
いささか残念な色をその声に帯びさせてだ。工藤は言った。
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