木の葉芽吹きて大樹為す
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青葉時代・プロローグ
前書き
*注意*
この青葉時代は他の話と違って残酷描写・流血描写が多々あります。
苦手な方はお気をつけ下さい。
――――男が一人、月下に佇んでいた。
恐れも、怯えも無い。
ただただ何処か不穏な輝きを秘めた赤い目が、揺らぐ事無く目の前の獣を射抜いていた。
「……千手柱間は言っていたな。尾獣にも感情や意思があり、話し合える事が出来ると」
『お前……。その赤い目は……!』
「笑わせる。つくづくあいつはやり方が甘い。それでよくぞ乱世を生き抜けたものだ」
此処には居ない誰かを嘲弄する様に、男が一人嘯く。
男の口より出された人名に、獣が唸り声を上げて反応した。
『千手、柱間だと? だとすればお前は――』
「ほう、お前の様な獣でもあいつの事を知っているのか」
空高く聳える山の頂きに前足を掛け、朱金色の毛並みを逆立てた九尾の狐。
獣の男への敵愾心を示す様にその呼び名の由来となった九本の尾が不穏に揺らめけば、愉快そうに男がその姿を見つめる。
獣を取り巻く空気が怯える様に震え出す。
常人であれば、まず間違いなく死を予期してその場から逃げ出そうと思考を巡らせる筈――だが。
男は獣の敵意をその身に受けながら、満足そうに嗤う。
それは、自らの標的が己が望むだけの力を手にしている事への歓びか。
それとも……――。
「九尾……今のお前は一時に結節した仮の姿に過ぎん。分散した力の一部でしかない」
男と獣以外は誰もいない地表に、淡々とした男の声が響く。
その傲慢さに獣は怒りを覚えながらも、自分よりも小さく矮小な筈の人間のその両眼から目が離せなかった。
「知の足らぬただの不安定な力でしかない。お前に導きを与える者……それがうちはだ」
男の全身から迸るチャクラが、獣を圧倒する。
「お前ら尾獣は瞳力者の僕でしかない――――従え」
三つ巴の浮かんだ赤い目が怪しい輝きを増し、その目に魅入られた獣の動きが止まる。
苦悶の声を獣が上げ、なんとかして自分を縛るその目から視線を離そうとするが、その途端赤い瞳が不吉な輝きを増した。
半ば血走っている男の両眼と交差している獣の眼は動かない――否、動けない。
やがて鮮血の眼に浮かぶ縦長の瞳孔が収縮する。
獣が天に向かって大きく吠えたその時には、その両眼には男と同じ三つ巴の紋が浮かんでいた。
「――そう、それでいい」
男が満足そうに頷いて、獣に背中を向ける。
己が瞳力に完全縛られた獣に見向きもせず、ただただ男は自らの視線の先に存在する場所を思う。
「……行くぞ、九尾。オレを捨てた一族と――奴のいる――木の葉へと」
……揺らめく炎を映した様な瞳は、憎悪を始めとする様々な感情で満たされていた。
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