戦国異伝
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第六十三話 岐阜その十三
「是非にと思ってのう」
「ではそれがし達が」
「御供を致します」
池田をはじめとした何人かがここで名乗り出る。
「殿お一人だとまた何かを起こしてしまいますので」
「放ってはおけませぬ故」
「何じゃ、わしは悪童か」
平手に言われたことをだ。苦笑いと共に言ってみせる信長だった。
「全く。嫌な扱われ方じゃのう」
「そうした意味ではそれがしと同じですな」
そのだ。織田家きっての悪童である慶次が笑って言ってきた。
「いや、殿もそれがしと同じでござるか」
「御主はもう少し大人にならんか」
その慶次を叔父の前田が叱る。
「全く。幾つになっても図体ばかりでかくなりおって」
「いや、そういう叔父上も昔から」
「わしの傾奇は節度があるわ」
自分のことはこう言う前田だった。だが甥には。とはいっても年齢はかなり近いが。
「御主は。助右衛門も困っておるぞ」
「えっ、それがしもでござるか」
その奥村が驚いて言ってきた。
「いや、何故ここでそれがしの名が」
「決まっておる。ついでじゃ」
「ついでとは」
「織田家きっての律義者で真面目な御主ならこ奴には困っておろう」
「いえ、別に」
戸惑いながらだ。奥村は前田の問いに答える。
「何も困ってはおりませぬが」
「何故そこで困っておると言わぬのじゃ」
「嘘は嫌いですから」
だからだとだ。実際に奥村は律儀に述べる。
「ですから」
「くっ、まことに律儀な奴じゃな」
「それが奥村家の家訓であります故」
「ああ、もういいわ」
奥村の同意を得られないと判断してだ。前田はたまりかねて話を一旦切った。
そしてそのうえでだ。あらためて慶次に言うのだった。
「とにかく御主はじゃ」
「悪童だと仰るのですか」
「全く。悪戯をするし戦がないと遊んでおる」
「それがし戦以外はできませぬ故」
「まことにふべん者じゃな」
「左様、実に困った者なのです」
自分自身についてだ。慶次は顔を崩して笑ってみせる。しかし叔父である前田は怒ったままだ。その二人を見てだ。信長はまた言う。
「そうじゃな。慶次も連れて行くか」
「またややこしい者を連れて行かれますな」
池田は信長のその言葉を聞いて呆れて言った。
「この者飯は食いますし悪戯はしますし連れて行くと大変ですぞ」
「しかし悪気はない」
悪戯はしてもそれはない。慶次はただ童心に従っているだけなのだ。
だからだ。信長もここでこう池田に言うのだった。
「では慶次がわしに斬りかかると思うか」
「それは有り得ませぬ」
すぐにだ。池田も答える。
「断じてです」
「そうじゃな。慶次が謀反なぞ有り得ぬな」
「気付かぬうちに人の飯を食うことはありますが」
「しかし人の女を食うことはせぬ」
信長は笑って慶次の何処か弁えた性格を話す。
「無論男もじゃ」
「まあそうしたことは嫌いですから」
慶次自身もこう言い切る。
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