久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十六話 壬本という駒その六
「どうもな」
「僕は悪くない」
壬本は俯いてだ。呟く様にぶつぶつと言ってきた。
「何も悪くないんだ。皆が許してくれなかったんだ」
「何をかな、一体」
「それは」
「ああ、言わなくてもいいさ」
聞くつもりもなかった。そのうえでの言葉だった。
「君の言うことは絶対に自己弁護しかないからね」
「僕の言うことは」
「君みたいな人間も見てきたからね」
工藤は壬本をいささか嫌悪を漂わせながら見て言った。
「自分しかなくてことの善悪がわかりそうもない人間はね」
「何故そう言えるんですか」
「だから。君みたいな人間を見てきたからだよ」
過去の人生経験でだ。そうしてきたからこその言葉だった。
「だからわかるんだよ」
「僕のことが」
「君は絶対にまともな人間じゃない」
工藤は断言さえした。
「自分が何をやっても気付かないし反省しない」
「僕は悪くない」
「そして何もわからない。その自己弁護の言葉が何よりの証拠だよ」
「お父さんもお母さんも」
「だから言わなくていいよ」
まただ。工藤は壬本に言わせなかった。
「君の言うことはわかってるからね。それならね」
「戦うんですか」
「そうだよ。そうしようか」
こう言ってだ。そしてだった。
工藤は身構えてだ。己の力を使った。十字の剣で十字を切った。
するとだ。壬本の足元が十字に割れた。そこにだ。
壬本は落ちていく。それを見て高橋が言った。
「まさかこれで終わりじゃないですよね」
「流石にそれはないだろうな」
「あの少年、いえ青年ですね」
壬本のその小さな姿を思い出しながらだ。高橋は言ったのだった。
「確かに素人ですが」
「素人でもそれでもだ」
「剣の力があるから」
「そう。だからね」
それ故にだった。工藤は確信していたのだ。
「これ位では倒れない」
「そして終わらないですね」
「さて。どうするかだ」
十字に割れた大地は塞がっていまっていた。その跡も消えようとしている。
その跡を見ながらだ。彼は言ったのだった。
「これからな」
「そうですね。どうしてくるかですね」
工藤も高橋もその大地の傷跡が消えていくのを見守っていた。そしてだ。
その傷跡が完全に消えた。その時にだった。
壬本が出て来てだ。大地から闇が出て来てだ。
それが大地を溶かしそしてだ。そこから壬本が出て来たのだ。
壬本は背中を曲げた猫背の姿勢のままでだ。アスファルトの上に立って言った。
「危なかったです。何てことよ」
「これが剣士の戦いだがな」
「僕を殺すつもりなんですね」
「君が死ぬかどうかはともかくだ」
だがそれでもだとだ。工藤は厳しい声で答えた。
「俺達は戦いを止めるつもりだ」
「それなら何故僕を」
「君が己の為だけに戦いだ」
そしてだというのだった。
「その目的を果たそうとするならだ」
「僕を殺すんですか」
「止めるつもりだ」
「しかし今のは」
「君も力を使う。それならだ」
それならばだというのだ。工藤は暗く陰湿な目の、如何にも卑屈そうな壬本に告げたのだった。
「俺はその君を止めてだ」
「だから何故」
「君の様な人間はこうして止めるしかない」
そしてその止め方はだ。どういったものかというと。
ページ上へ戻る