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戦国異伝

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第六十一話 稲葉山入城その十二


 その文の書についてだ。平手は言うのである。
「だからこそですが」
「ふむ。爺らしいのう」
 信長は平手のその話を聞いてこう述べた。
「実にな」
「それがしらしいですか」
「うむ、それでいい」
 平手らしいともいうのである。
「よいことではある」
「とにかく竹中殿のところに殿がですか」
「行くぞ」
「また思い切ったことをされます」
 平手はいささか賞賛さえ込めて述べた。そうしてこんな話もした。
「三顧の礼ですか」
「そうじゃ。今孔明じゃからな」
「あの三国時代の軍師ですか」
「まあ諸葛孔明は実際には政の者じゃったが」
「宰相でしたからな」
「軍師ではあったがな」
 それでも実際は政を最も得手としていたのだ。彼は政治家だったのである。
「しかし政の者じゃった」
「では竹中殿は孔明というよりは」
「張良じゃな」
 漢の高祖劉邦に仕えた稀代の名軍師である。その智謀は伝説の域にまで達している。
「それじゃ」
「あの張子房ですか」
「わしは今から今この国の張良に会いに行く」
 実際にこうも言う信長だった。
「そしてじゃ」
「家臣に迎え入れられますか」
「そうする」
 まさにそうするというのだ。
「わかったな」
「ではその様に」
 こうして信長は美濃四人衆、そして平手を連れて行こうとした。しかしここでだ。もう一人名乗り出て来た。それは。
 柴田だった。織田家の武の柱の一人がだ。主にこう言ってきたのである。
「いやいや殿、護衛の者がおりませぬぞ」
「爺がおるぞ」
「平手殿は小言の護衛でござる」
「ははは、そうじゃな」  
 柴田の今の言葉にだ。信長はついつい笑ってしまった。
「爺の小言には鬼も天狗も参ってしまうわ」
「全く。言ってくれますな」
 平手も実際に口を尖らせて言ってくる。
「それがしは必要だからこそ殿に謹言を」
「こう言うところが厄介じゃ」
「まあ口の護衛はおりまするが」
 柴田はここでまた言うのだった。
「問題は剣の護衛です」
「それじゃな」
「ですからそれがしが」
 護衛に来るというのである。
「例え熊が出ても狒々が出ても負けませぬ」
「狒々でもか」
「鬼でも天狗でもです」
 その力で倒してみせるというのだ。
「ですから是非共」
「言ったのう。それではじゃ」
 ここまで聞いてだ。信長は笑ってだった。
 そうしてだ。こう柴田に告げた。
「権六、御主も来い」
「はい、さすれば」
「御主がそう言えば引かぬ」
 頑固なことでは平手に引けを取らない、柴田はそういう男だ。
 それを見抜いてだ。彼も連れて行くとしたのだ。かくしてだ。
 二人のよく知った者達も連れてだ。信長は竹中の隠棲している場所に向かうのだった。
 そうしてだった。竹中ともだ。信長は会うのだった。


第六十一話   完


               2011・10・10 
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