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戦国異伝

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第六十一話 稲葉山入城その十一


「そしてそこから信長に兵を挙げようぞ」
「ではその様に」
「ここから向かいましょう」
 龍興は国をなくしてもそれでもだった。まだ諦めてはいなかった。
 美濃から僅かな家臣達と共に落ち延び摂津へと落ちていった。このことは暫くして信長にも伝わった。
 その話を聞いてだ。信長はこう言うのだった。
「では仕方がない」
「追うのを止められますか」
「美濃から出てはどうしようもない」
 それでだ。止めるというのである。報告する堀に述べたことだった。
「今他の国にまで追っ手を差し向けても何にもならぬ」
「では今は」
「美濃の政に専念する」
 信長の最大の関心はそこにあった。
 それでだ。前に控えるその家臣達に言うのだった。
「今は人手が幾らあっても足りんからな。それにじゃ」
「それに?」
「それにといいますと」
「一人誘いたい者がおる」
 信長の目が光った。そのうえでの言葉だった。
「あの者じゃ」
「半兵衛ですな」
 新しく家臣団に加わった安藤がだ。信長に問うた。そこには氏家に稲葉、不破もいる。
 その中からだ。安藤が問うたのである。
「あの者を」
「そうじゃ。あの者は今何処にいるかじゃが」
「それでしたらそれがしが知っております」
 安藤はすぐに信長に述べた。
「案内致しましょうか」
「何処かの山に隠棲しておったな」
 信長はここまではわかっていた。しかしだ。何処の山なのかは彼も知らない。それでここで安藤に対して問うたのである。それを受けて。
 安藤もだ。こう答えたのだった。
「美濃のです」
「この国におるのじゃな」
「はい」
 その通りだというのである。
「さすれば案内致します」
「我等もです」
「御供させて頂きます」
 氏家と稲葉も言う。そして不破もだ。
 確かな声でだ。信長に言ってきたのだった。
「無論それがしも」
「四人衆揃ってじゃな」
 彼等の言葉を受けてだ。信長は静かに述べた。
 そのうえでだ。彼のすぐ傍に控える平手がだった。信長に言ってきたのである。
「では。それがしも参りましょう」
「何じゃ、爺もか」
「ではそれがしも」
 木下もだった。少しおどけた感じで言ってきた。
「御供をお願いします」
「爺に猿か。また妙な組み合わせじゃな」
「天下一の軍師ですからな」
 平手は理由としてだ。こう述べてきた。
「ですから一度です」
「その目に見たいというのか」
「いえ、殿の家臣に会えば何時でも会えまする」
「では一度何なのじゃ?」
「その書を見たいのです」
 天下一の軍師の蔵書、それをだというのだ。
「是非共」
「書をか」
「一体どうした書があるのか」
 平手は主にさらに話す。
「是非見たいのです」
「政の書じゃな」
「無論兵法の書もですが」
 平手は実は武は得意ではない。かなり文によっている。信長もそれがわかっていて政のことは平手にかなり尋ねている。実はこれは信行にしても同じである。彼も文なのだ。 
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