久遠の神話
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第二十四話 七人目の影その十二
「しっかりと考えてな」
「そのうえで、ですか」
「決めるんだ。けれど決めるまでの間はな」
「戦い自体からですか」
「避ける方がいい。少なくとも今わかっている剣士は全員訳のわからない奴じゃない」
広瀬にしてもそうだった。最も戦うことを望んでいる彼でもだ。
「去れば。追って来ることはしないからな」
「それは中田さんもですか」
「当たり前だろ。確かに俺も剣士で上城君も剣士さ」
互いに戦い合うだ。それだというのだ。
「けれどそれでもな」
「敵同士でもですか」
「俺はそんなことはしない」
微笑んでだ。中田は上城に答えた。
「このことは保障するさ」
「そうですか」
「決めてからまた話すかい?」
気さくな笑みのままだった。今の中田は。
そしてその気さくな笑みでだ。こうも言ったのだった。
「じゃあ今からな」
「はい、今からですか」
「何か飲むかい?」
笑ってだ。上城を誘ったのである。
「俺の家に来てな」
「飲むんですか」
「丁度ビールを買ったんだよ」
つまりだ。それを一緒に飲もうかというのだ。
「つまみはソーセージな」
「あっ、いいですね」
「それどうだい?樹里ちゃんもな」
「私もですか」
「気分転換にもなるぜ。どうだい?」
「いえ、今は」
「ちょっと。すいません」
だが、だった。二人は共にだ。中田の申し出にこう返したのだった。
「ビールはちょっと」
「お酒自体を」
「控えてるのかい?」
「はい、そんな気分じゃなくて」
「申し訳ないですけれど」
「いやいや、酒ってのは飲みたい時に飲みたいのを飲みたいだけ飲むものなんだよ」
中田は二人の申し訳なさそうな言葉と顔にだ。やはり気さくな笑みでだった。
その笑みでだ。こう言ったのだった。
「だからいいんだよ」
「すいません、本当に」
「今日は」
「謝ることもないさ。じゃあ今はな」
どうするか。中田が話をリードして進め続ける。
「御別れだな」
「じゃあまた」
「宜しくお願いします」
「何かあったらまた相談に乗るからな」
今は完全にだ。中田は二人にとっては優しく包容力のある先輩だった。
その先輩がだ。上城の背中を暖かく叩いて言った言葉は。
「人生悩むものだけれどその時間は出来るだけ少なくな」
「少なくですか」
「長い間悩んでいてもいい結論が出るとは限らないからさ」
「そういうものなんですか」
「まあ時には悩んでいれば何をしても許されるって思ってる馬鹿もいるさ」
そういう輩のこともだ。中田は話に出したのだった。
「悩んでた、だからしなければいけないことをしなかった」
「それって自分だけのことですよね」
「ああ。利己主義の馬鹿の台詞さ」
まさにそれだとだ。中田はここでは忌々しげに言い捨てた。
「そんな奴はそれこそな」
「それこそですか」
「何時か破滅するものなんだよ」
「そうなるんですか」
「そういう馬鹿はどえらいことをやらかるからな」
それこそだ。誰もが許さない様なことをだというのだ。
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