久遠の神話
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第二十三話 七人目の影その十二
家を出てそうしてだ。広瀬が言ってきた。
「では今から家までだ」
「送ってくれるのね」
「それから俺も帰る」
「本当にお父さんとお母さんにはまだなの?」
「ああ、それはいい」
会うこと、それはいいというのだ。
「そのまま帰らせてもらう」
「気がねしなくてもいいのに」
「気がねか」
「それだったらいいのに」
「気がねではない」
そのことは否定する広瀬だった。それではないというのだ。
「ただ。俺はだ」
「広瀬君は?」
「少し。怖いだけだ」
こうだ。顔を少し俯けさせてだ。そのうえでだ。
店ののれんをくぐりながらだ。こう言ったのである。
「それだけだ」
「怖いのか」
「そうだ。怖いのだ」
こう言ったのである。
「それだけだ」
「怖いって何が」
「何でもない。だがとにかくだ」
「お家まではね」
「送る。そうさせてもらう」
「有り難う。それじゃあお願いするわね」
「ではな」
こうしたやり取りのうえでだ。広瀬は彼女を送った。そうして海辺のマンションの二階まで来た。その五号室の前まで来てそうしてそこでだ。
女は部屋の扉の前まで来てだ。その前でだ。
広瀬にだ。笑顔で言ったのである。
「有り難う。今日もね」
「送ったことか」
「有り難う。デートしてくれて」
「デートだけじゃない」
「ボディーガードもなのね」
「君は誰にも傷つけさせない」
決してだとだ。彼女の目を見ての確かな言葉だった。
「それを言っておく」
「そうしてくれるのね」
「そうだ。そしてだ」
そうしてだというのだ。
「君は安心していい」
「広瀬君がいてくれるからなのね」
「そう思っていてくれ」
「ええ。それじゃあね」
「ではまた」
「明日ね」
「学校で会おう」
微笑みだ。彼女に言う広瀬だった。
「その時をまた楽しみにしている」
「私も。じゃあまた明日ね」
「会おう」
こう挨拶をしてだ。別れる二人だった。それから広瀬は自分の家に帰ったのだった。一人で。
第二十三話 完
2012・2・3
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