戦国異伝
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第六十話 四人衆帰順その九
「前から都は不穏な状況じゃがな」
「何もなければというのは最早思わぬ方がいいですな」
「殿もそう思っておられるじゃろう」
丹羽は信長もどうかというのだった。
「だからじゃ。美濃を手に入れてもすぐにじゃ」
「また出陣となることも有り得ますか」
「公方様を見捨てる訳にはいかん」
それでだというのだ。
「だからじゃ」
「そうですな。殿は今の公方様に認めてもらいましたし」
「殿は御自身を認めた人には誠意を見せる」
それは相手が将軍であっても家臣達であっても同じだ。もっと言えば領民達に対しても同じだ。そうしたところがあるのである。
「だからじゃ。公方様をお救いになられるだろう」
「それ故にですな」
「美濃を手に入れたところで何かあれば」
まさにその時にこそだというのだ。
「上洛されるぞ」
「ですな。ではその時にもまた」
「さて、都も気になるしこの美濃もじゃ」
丹羽はこちらに話を戻してきた。
「今こちらに一気に傾いておる」
「左様ですな。それでは」
「うむ、そろそろ時じゃな」
普段は温和な顔の丹羽もだ。今はだ。
稲葉山の城を見つつだ。鋭い顔で言うのだった。
「あの城を攻め落としてじゃ」
「そのうえで美濃一国を手に入れる」
「その時が来たな」
まさにそうだというのである。
「いよいよじゃ」
「ですな。桶狭間からそれ程時は経ってはいませんが」
「短いようで長くも感じる」
「その通りです」
「思えば不思議なことじゃ」
丹羽も木下もこう言うのだった。そうしてだ。
その稲葉山城を見てだ。丹羽はまた言った。
「あの城は容易には陥ちぬな」
「このままではそうでござるな」
「確かにこの城はできた」
城を攻めるにあたって足掛かりとなる、その城はだというのだ。だが戦はそれだけで完全に勝てはしない。さらにあるのであった。
「しかしまだあちらには一万の兵もおるしのう」
「その一万の兵をどうするかですな」
「うむ。やはりこの城に来るじゃろうな」
丹羽は読んでいた。敵がどう来るのかを。
「そしてそのうえでじゃ」
「この城を攻め取り潰しにかかりますな」
「そうなる。一戦あるな」
丹羽は強い顔で述べた。
「暫くしたら来るじゃろうな」
「ではこちらもですな」
木下はすぐに丹羽に応えた。
「戦の用意を」
「この城で一万を防げるかのう」
「まあ一日や二日なら大丈夫です」
「ではその間にじゃな」
「援軍が来ればそれで勝てます」
そうなるというのである。
「ですから。今のうちに殿にお伝えしてですな」
「そうするとするか」
二人がこうした話をしているとだった。そこにだ。
忍の者が来てだ。二人にこう告げてきたのだった。
「殿が出陣されました」
「何っ、殿が」
「そうされたというのか」
「左様です、そして」
その忍の者はさらに話す。
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