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久遠の神話

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第二十二話 広瀬の礼儀その七


「俺にはちょっと、いや絶対にできないな」
「お二人にも欲はあるのでしょうか」
「欲のない人間なんていないしな」
「それならですね」
「あの人達だってな。やっぱり迷ったと思うぜ」
「欲を取るか倫理を取るか」
 聡美はこの二つを天秤の双方に置いて述べた。
「そうしてですね」
「人間な。美味いものに女に金に権力にってな」
「欲いものがありますね」
「それこそ山みたいにあるさ」
 そうだというのだ。中田の言葉はここでも達観したものである。
「あの人達だってな」
「やはり欲が」
「あって当然だよ。けれどあの人達は決めたんだよ」
「自分の欲を捨てて戦いを止められることを」
「「それは俺にはできない」
 また言う中田だった。
「だから凄いんだよ」
「中田さんは全てわかっておられるのですね」
「いや、全然わかってないさ」
「全くですか」
「ああ、わかってなくてそれで言ってるんだよ」
 自嘲めいた笑みだったがそれは決して自嘲ではなかった。
 聡美から見ればわかっている顔でだ。そのうえでの言葉だった。中田も気付いていないが。
「俺はやっぱり間違ってるんだよ」
「人間同士が戦うことが過ちなら」
「ああ、俺自身の考えにもな」
「ですがそれでも中田さんは」
「願いを適えたいんだよ」
 微笑みだ。こう述べたのである。
「俺の願いをな」
「そしてそれは」
「ああ、それは言わないさ」
 中田自身が願っているそれはだ。決してだった。 
 彼は言わずにだ。そして言うことだった。
「悪いけれどな」
「ですか。しかしその望みは」
「強いさ。自分でもわかってるさ」
「ご自身の御心を封じてまでですからね」
「弱い筈がないよな。あの先生だってな」
「そうですね。では」
「ああ、俺は戦う」
 中田はだ。迷いを語りながらもだ。
 それでもだった。聡美にはっきりと言ったのだった。
「絶対にな」
「そうされますか」
「引いたらそれで負けだよな」
 達観、だがそこには寂しさもある顔だった。
「俺の場合はな」
「中田さんの場合は」
「まああの先生の説得はな」
「そうですか」
「諦めた方がいいな。俺もな」
「中田さんもまた」
「話はできるさ」
 それはだというのだ。しかしそれでもだった。
「けれど戦いは止めないからな」
「わかりました。受け入れたくはないですが」
「ああ。それにしてもあんたな」
 戦いの話からだ。聡美を見てだ。
 そのうえでだ。今度は彼女自身に話すのだった。
「色々知ってないか?」
「戦いのことをですか?」
「ああ、今ちらって思ったんだけれどな」
 もっと厳密に言えば気付いた。それで言ったのである。
「あんたそうじゃないかな。戦いのことを」
「ギリシアの文献を読みましたので」
 内心焦っていたがそれを隠してだった。
 聡美はこくりと頷いてだ。そのうえでこう中田に答えた。 
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