久遠の神話
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第二十二話 広瀬の礼儀その五
「そうだけれどな」
「ですが中田さんは」
「ああ、正直人と戦うことは嫌いだよ」
また己の考えを述べるのだった。
「剣道ってのはそういうのじゃないからな」
「活人ですね」
「ああ、少なくとも俺の剣道はな」
「それですか」
「そうだよ。俺の剣道は活人剣なんだよ」
そうだとだ。中田はこのことは強く話した。
「己を鍛えてやがてはな」
「先生になってですね」
「人にも教えたいと思ってるさ」
そこまで考えているというのだ。
「学校の先生なりになってな」
「先生ですか」
「ああ、学校のな」
将来の夢も話す中田だった。
「大学の教授とかになれたらもっといいな」
「体育学部のですね」
「剣道だけじゃなくてスポーツ全般を研究してるんだよ」
中々勉強家の中田だった。彼が学んでいるのは剣道だけではなかった。
「身体の構造おかコンディションとかメンタルもな」
「総合的ですね」
「あんた野球は知ってるかい?」
中田は今度は野球の話をしてきた。それをだ。
「ギリシアは野球知らないか?」
「野球は」
それはだというのだ。聡美も答える。
「日本に来てからです」
「知ったっていうんだな」
「はい、中々面白いですね」
野球について好意的に話すのだった。顔も綻んでいる。
「観ていると特に」
「だよな。ファンとかはまだか」
「近くの球場のあのチームが好きです」
彼等が今いる神戸のだ。その近くのだというのだ。
「ええと。名前は確か」
「阪神かい?」
「はい、あのチームは何かいいですね」
聡美はそのチームのことは顔をさらに綻ばせて話す。
「華があります」
「だよな。俺も阪神好きだよ」
「そうですか」
「それでもな。西武ってチームがあるんだよ」
「西武ですか」
「そのチームのことを勉強すると面白いんだよ」
中田は御飯を食べながら話す。その丼の様に大きな碗の中のそれをだ。
「科学的でな。その西武が滅茶苦茶強かった時期の野球なんてな」
「科学的ですか」
「ああ、そうだったんだよ」
中田は顔を明るくさせて聡美に話していく。
「スポーツも科学なんだよ。作戦なんだよ」
「作戦ですか」
「そうだよ。だからそうしたのを研究してな」
「先生になりたいのですか」
「ああ、そう考えてるよ」
実際にそうだとだ。中田は話していく。
「もっともっとそうしていきたいな」
「ですか。中田さんの夢はですか」
「先生だよ。だからな」
「その剣道もですか」
「活人剣だよ」
そうだとだ。また述べる彼だった。
「それは変わらないさ。だからな」
「人と戦うことはですか」
「出来るならしたくはないさ」
曇った目だった。しかしだ。
それでもだとだ。彼はまた言うのだった。
「けれど俺もな」
「その適えたいことの為にですね」
「ああ、戦うさ」
不本意でなくともだ。そうするというのだ。
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