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戦国異伝

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第五十八話 墨俣での合戦その九


「美濃で一番の豪の者よ」
「その名、聞いたことがある」
 前田もだ。知っている名だった。
「あちこちの戦に出てそうして荒れ狂っておるそうじゃな」
「そうじゃ。そういう御主は誰じゃ」
「前田」
 まずは姓から名乗った。
「前田利家じゃ」
「むう、では御主がか」
「ほう、わしの名を知っておるな」
「槍の又左じゃな」
 この通り名は既に斉藤家でも知られていた。
 それでだ。その前田にこう言うのだった。
「その御主がわしに首をくれるというのか」
「言うのう。それはわしの言葉じゃ」
「ははは、面白いことを言うのう」
 お互いにだ。こう言い合ってだった。
 睨み合いをはじめた。そのうえでだ。
 それぞれ一気に前に賭け。そうして。
 互いの槍を繰り出し縦横に振るう。忽ちのうちに十合、二十合と打ち合う。
 銀の火花が散り激しい音が鳴り響く。まさに龍と虎の一騎打ちだった。
 それをだ。双方の兵達が呆然として見る。勝負はやがて百合になった。
 ここでだ。前田は。
 その槍を一気に繰り出した。それで。
 足立が防ごうとするのをかいくぐり。馬から突き落とした。それが合図になった。
 家きっての猛者を倒された斉藤の軍勢は持ちなおしかけたところで一気に崩れた。こうなっては最早誰がいてもどうにもならない。そうして。
 そこに丹羽、佐久間の軍も来てだ。一気に攻めたのである。青い軍勢が斉藤の軍を一気に押した。そしてそのまま押し潰したのである。
 信長率いる本陣が戦場に辿り着いた時には最早斉藤の軍は一人残らず戦場から逃げ去っていた。墨俣の地は完全に織田のものになった。
 その彼の前に次々と捕虜や首が来る。まずは捕虜達にだ。
 信長はだ。傍らにいる平手に話した。
「兵に組み入れよ」
「これまで通りですな」
「そうじゃ。捕虜はそうするに限る」
 こう平手に言うのである。
「無駄に殺したり粗末にするものではない」
「敵の兵はこちらの兵にする」
 このことにだ。平手は言った。
「孫子にあることですな」
「左様じゃ、孫子じゃ」
 まさにそれだとだ。信長も言う。
 そしてだ。そのうえでだった。
 捕虜は次々に自軍に組み入れ。首も見るのだった。
 首の数は多かった。織田がそれだけ勝ったということである。
 その次から次に出される首を見てだ。信長はさらに満足した面持ちになった。
 しかしここでだ。ある首を見てだ。
 信長は表情を強張らせ。平手に問うた。
「この者はまさか」
「はい、斉藤家きっての猛者である」
「そうじゃな。あの首取り足立ではないか」
「その者が討ち取られたのですか」
「誰じゃ、討ち取ったのは」
 信長は次はいぶかしむ顔で周りに問うた。
「褒美を好きなだけ取らす。これは大きいぞ」
「はい、それですが」
 ここでだ。金森が出て来た。そうしてだ。
 信長の前に控え。こう言った。
「又左でございます」
「ほう」
 それを聞いてだ。信長は。
 まずは少しだけだった。満足な顔になった。
 そのうえでだ。こう金森に問うた。
「これだけか」
「これだけかといいますと」
「取った首はこれだけか」
 こう金森に問うたのである。
「それはどうなのじゃ」
「はい、他にはです」
 ここでだ。その足立の首以外にもだ。次から次にだ。 
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