| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十八話 墨俣での合戦その七


 動きはかなり悪い。柴田はそれを見て言ったのである。
「ならばじゃ」
「挟み撃ちにしてそうしてですか」
「一気に」
「そうじゃ。崩す」
 まさにそうするというのだ。
「敵は間違いなく右の軍に向かうがじゃ」
「その動きが遅い為ですか」
「左からも攻めて」
「そうして攻める。さてその攻め方じゃが」
 そうしたことまで話したうえでだ。柴田はその先陣をまずは左右に分けたのだった。そのうえで自身は右翼を率いてだ。敵から見て左側に回り込んだのだった。
 それを見てだ。斉藤の軍の将達はすぐに言い合った。
「そのまま我等の横を衝くつもりか」
「ふん、数は我等の方が多いのにそう来るか」
「愚かな奴等よ」
「さて、殿はおられぬが」
 主の龍興は出てはいない。彼は稲葉山で今も酒と女に溺れている。
 その彼についてはだ。斉藤の家臣達もだ。
 少しだ。項垂れて言うのであった。
「殿にも困ったことよ」
「織田はあのうつけが自ら来ておるのにな」
「我等の殿はどうして」
「ああも酒に女なのじゃ」
「酒に女もよいが」
 こうだ。彼等は話していく。
「戦のことも見てもらいたいものじゃ」
「それに政もな」
「国人達も家臣達も次第に離反してきておる」
「これでは斉藤も危ういぞ」
「全くじゃ」
 こう話してだ。斉藤の危惧を感じているのだった。
 見れば彼等の顔は浮かない。そしてだ。
 その彼等が率いる兵達もだ。具足の手入れは悪くだ。
 刀も槍も今一つ手入れがよくない。弓もだ。
 そしてだ。彼等の動きもだ。
 柴田は自軍と比べて緩慢な彼等の動きを見てだ。こう共にいる佐々に述べた。
「思った以上じゃ」
「相手の動きが悪いと」
「うむ、碌に訓練をしておらん」
 その動きを見て言うのである。
「それにじゃ」
「率いている者もですな」
「やる気もないしそれに資質もない」
 どちらも欠けている者達だというのだ。
「その連中をじゃ。今から攻めるぞ」
「わかりました、それでは」
「全軍このまま前に出よ」
 柴田は全軍に厳かに告げる。
 それを受けてだ。織田軍は。
 実際に前に出る。そして間合いを見計らい。
 柴田がだ。また言った。
「よし、弓を放て!」
「はっ!」
「わかりました!」
 すぐに応える声が挙がり。そうしてだった。
 足軽達が一斉に弓を放つ。
 弓が思いきり引かれそのうえでだ。斜め上に飛ばすのだった。
 見れば織田の弓は大きい。その弓を思いきり放ったのだ。それも何度も。
 織田の矢は斉藤の弓矢よりも遠くに飛びだ。そうして。
 斉藤の者達を射抜いていく。射抜かれた者達が次々と倒れていく。
「な、まだこちらは何もしていないぞ!」
「それなのにか!」
「ここまで飛んで来るというのか」
「何という弓だ」
 上から降り注ぐ弓矢を何とか避けながらだ。彼等は言う。
 しかしだ。斉藤の者達も何とかだ。前に出ようとする。そうして彼等は数を頼りにそのうえで弓を放つ。そうして反撃を加えるのだった。
 織田の足軽達も倒れていく。だが倒れる数は斉藤の者達の方が多い。具足の質の違いが出ていた。そして。
 さらに間合いが近まりだ。それを見てだ。柴田は今度は。
 槍兵達にだ。こう命じた。
「前に出よ」
「はい、では」
「次は我等が」
「敵を叩き続けよ」
 槍でだ。そうしろというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧