戦国異伝
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第五十八話 墨俣での合戦その四
「それじゃな」
「むっ、おわかりですか」
「大体じゃ。しかし御主の女房殿は確かに立派じゃが」
「それでもですか」
「そうじゃ。わしの女房には負ける」
そうだとだ。笑って言うのである。
「わしに馬を買う金まで用意してくれたのじゃからな」
「馬ですか」
「この馬を見よ」
見ればだ。その馬はだ。
かなりのものだ。その自慢の馬に乗って話すのである。
「女房が用意した金で買ったのじゃよ」
「むっ、実はわしの馬も」
何故かだ。木下はここでだ。負けじとだ。
こうだ。山内に言い返したのである。
「かなりのものでしてな」
「ほう、そういえばその馬は」
「よい馬でござろう」
「しかも鎧もよい」
青のその鎧、織田家の色のその鎧もだ。
兜がだ。日輪の様に拡がっている。その兜まで見て山内は言うのである。
「ねね殿のやり繰りのお陰じゃな」
「そうでござる。わし一人ではとても」
できなかったというのだ。
「馬も鎧も揃えられませんでした」
「それだけねね殿が見事だと言いたいのじゃな」
「天下一でござる」
「ふん、わしの女房もじゃ」
山内もだ。まさに負けじと返す。そんなやり取りになっている。
それでだ。言うことは。
「この見事な鎧と兜に陣羽織もじゃ」
「むっ、それもですか」
「そうじゃ。揃えてくれたのじゃ」
「陣羽織も言うとそれがしもですぞ」
「御主もだというのか」
「左様、やはりねねは天下一の女房でござるよ」
「いや、わしの方が」
こうだ。言い合う二人を横目で見てだ。秀長は。
二人の間に入りだ。こう言ったのである。
「あのですな」
「むっ、何じゃ」
「猿の弟殿ではないか」
「細君に優劣なぞありませぬ」
そうだとだ。彼は二人に言うのである。
「それを言っても何にもなりませぬぞ」
「いや、しかしじゃ」
「どうもこの猿がじゃ」
「ですから。お二人共見事な細君を貰いました」
秀長はまた言う。
「そういうことです」
「同じか」
「同じだというのか」
「ですから御二人はそこまでなれたのですから」
それではだ。優劣なぞつけられないというのだ。
こう言ってだった。二人の言い合いを止めてだ。
そのうえでだ。また二人に対して話す。
「ではそのです」
「その?」
「そのというと」
「御互いの細君が作られた握り飯を食いますか」
彼の提案はこれだった。
「そうされますか」
「ふむ。そうじゃな」
「ねね殿の飯も美味そうじゃしな」
二人は秀長のその言葉に頷きだ。それでだ。
昼飯の時にその飯をお互いに食い合いだ。美濃に向かっていた。
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