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戦国異伝

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第五十六話 竹中の意地その五


「どういうことじゃ?」
「気配がまるでせん」
 こう言うのだった。
「そうじゃな。どうもこれは」
「おかしいのう」
「城は占領されておるというのに」
「兵はおらぬのか?」
 彼等の基準で考えてのことだった。
「そんな筈がないが」
「城は既に占拠されておる。足軽達を使えよう」
「だが気配がせんとは」
「一体」 
 彼等も首を捻るばかりだった。しかしだ。
 ここでだ。彼等にだ。彼等を率いる足軽大将達が言った。
「とにかく今はじゃ」
「はい、門をですね」
「開けますか」
「用心してな」
 それは忘れる訳にはいかなかった。流石にだ。
 そうしてだ。その足軽大将が自らだ。
 門に近寄る。しかしだった。
 弓も鉄砲も出て来ない。それも全くだ。
 それを見てだ。また足軽達が話した。
「まさか一人もおらんのか?」
「門のところに」
「若しや」
「開けるか」
 ここでだ。また言う足軽大将だった。そうしてだった。
 実際にだ。門を開けた。しかしだ。
 その向こうにもだ。誰もいなかった。本当に一人もだ。
 いぶかしむ彼等は門からその中を隅から隅まで見回す。しかしだった。
 やはり誰もいない。伏兵もだ。そしてそれは。
 城内全てにおいてだった。広い稲葉山の城の何処もだった。
 伏兵もいなければ罠もない。誰も何一つもだ。
 そしてだ。本丸の櫓の一つにだった。それはあった。
 文だった。それは。
「これはまさか」
「竹中殿の文か?」
「そうみたいだな」
「どうやら」
 字を読める者、その足軽大将が読んでみた。それは。
「ううむ、殿への諫言だな」
「それですか」
「そうなのですか」
「そうじゃ。竹中殿のな」
 そうした文だった。そしてだ。
 彼はそれを龍興にだ。すぐに送り届けたのだった。それを見てだ。
 龍興はだ。すぐにだ。
 身体をわなわなと震わせてだ。顔を真っ赤にさせてだ。
 そしてだ。こう言うのだった。
「ゆ、許さん」
「殿、竹中めのその文ですが」
「一体どういったものですか?」
「それでは」
「わしに酒と女を慎みだ」
 まずはだ。そのことが書かれているというのだ。
「そのうえでじゃ」
「そのうえで、ですか」
「何と」
「家臣や領民を大切にせよとある」
「それがその文に書かれていることですか」
「そうなのですか」
「ふざけたことを言う」
 身体を震わせたままだ。龍興はだ。
 今度はだ。こう言うのだった。
「何様のつもりじゃ。わしに言うなどとは」
「左様ですな。竹中め増長しております」
「そして言いたいことだけを言って逃げたのですか」
「そうなのですか」
「さっさと城から出て美濃からも出てじゃ」
 それもだ。文に書かれているというのだ。 
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