戦国異伝
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第五十五話 美濃の神童その九
「稲葉山を陥としこの美濃を手に入れられれば」
「その時ですな」
「わしはそこまで見る」
そうしてだ。決めるというのだ。
だが、だ。人は彼だけではない。彼はここで彼等の名前も出した。
「しかし安藤殿達はというと」
「兄上とは違いますな」
「おそらく。わしより先に決められる」
「これからどうされるかを」
「うむ、決められる」
そうするというのだ。彼等はだ。
「おそらく。稲葉山の城に王手をかけたその時にじゃ」
「その時にですか」
「決められる」
「この城に王手をですか」
「そうなればじゃ」
「それはできるでしょうか」
信長がだ。そこまで出来るかどうかとだ。彦作は兄に問うた。
「織田殿は」
「墨俣を取り」
「あの地を」
「してあの地に砦を築けばよい」
そうすればいいというのだ。その墨俣にだ。
「それで王手となる」
「あの地にとなると」
だが、だ。彦作はだ。
兄の話を聞いたうえでだ。難しい顔でこう話した。
「それは難しいのでは?」
「そうじゃ。それは難しい」
「はい、あの地は確かにこの城の喉元にあります」
だからこそ砦を築くと大きいというのだ。しかしだ。
そのだ。彼等が今いる稲葉山にいること自体がだ。問題だというのだ。
そこに砦を築こうとする、そうなればだった。
「では砦を築こうとすれば」
「当然それを防ぐ兵が出されるな」
「そうならない筈がありません」
まさにだ。そうなるというのだ。
「ですからそれは」
「しかし短い間に築けばいい」
「短い間にですか」
「左様、一夜とは言わぬがじゃ」
とにかくだ。短い間に築けばいいというのだ。
「築けばじゃ」
「それで王手となりますか」
「左様、それを御覧になられれば」
安藤をはじめとした四人衆はだ。どうなるかというのだ。
「あの方々は決められる」
「織田殿につかれることを」
「そうされる」
「さすればそれで終わりですな」
すぐにそうなるとだ。彦作も話す。
「美濃は織田殿のものになられますな」
「城は一つだけではどうにもならぬ」
竹中はここで遠い目になった。そのうえでの言葉だった。
「殿はそれがわかっておられぬ」
「この稲葉山の城がどれだけ固くとも」
「それだけでは駄目なのだ」
彼が主に言いたいのはこのことだった。
それをだ。今遠い目になり弟に話すのである。
「それをわかって頂ければ」
「いいというのですね」
「無理であろうがな」
それはわかっていてもだった。
「だが。それでも」
「では気付かれるのはどなたでしょうか」
「織田殿だ」
他ならぬだ。信長だというのだ。
「あの御仁はおわかりになられる」
「城だけではどうにもならないということを」
「既におわかりかも知れぬが」
そのだ。信長ならというのだ。
「それなら余計にじゃ」
「織田殿が天下に近いとなりますか」
「そうなる。とはいっても天下を手に入れるのは容易ではない」
上洛してもだというのだ。
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