戦国異伝
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第五十五話 美濃の神童その二
「そう考えているのです」
「気付いてもらいたいのじゃな」
「戦国の世でなくとも」
「そうでなくともか」
「色と酒に溺れていては何にもなりませぬ」
彼が言うのはこのことだった。
「ですから。それからです」
「目覚められることをか」
「願っています」
「しかしじゃ」
今度言ったのは氏家だった。彼も竹中に対して問うた。
「我等は殿のお言葉を受けて誓ったではないか」
「あのことですね」
「そうじゃ。若し織田殿が我等の主に相応しく」
ここでの殿とは道三のことだ。彼等にとって道三はまだ主であるのだ。
「そして龍興様が相応しくなければじゃ」
「織田殿につく」
「それを見極めるのではないのか」
「そうじゃな」
稲葉は氏家の言葉に頷きだ。そうしてだった。
彼もまただ。竹中に問うのだった。
「それで何故あの殿に気付いてもらいたいのじゃ」
「確かに織田殿と龍興様それぞれを見ています」
竹中はこのことは前提として話した。
「しかしです。人がああして暗愚と言われる道に入るのはです」
「放ってはおけぬのじゃな」
「はい」
その通りだとだ。竹中は不破の言葉に答えた。
「ですから」
「お諌めの意味も込めて」
「しようと思っています」
そうだとだ。竹中は己の考えを述べた。そのうえだ。
こんなこともだ。四人に話すのだった。
「それに稲葉山城ですが」
「あの城がか」
「どうしたというのじゃ」
「陥ちることはないと言われています」
まさにだ。難攻不落だとだ。
竹中は今度はだ。このことについて言うのだった。
「しかし。陥ちない城はありません」
「それを確める為にもか」
「やってみるのか」
「そうです。その際に血は一滴も流しません」
この言葉は約束だった。尚竹中はできないことを言うこともなければ嘘偽りを言うこともない。軍師だがそれでもなのだ。正直なのだ。
その彼がだ。今四人に約束したのだった。
「そのうえであの城をです」
「それは無理じゃな」
稲葉がだ。それができるかというとだ。
すぐに否定してだ。こう言ったのだった。
「あの城を無傷で陥とすとは」
「無理だと仰るのですね」
「そうじゃ。絶対に無理じゃ」
稲葉はあくまでこう言う。
「できるものではない」
「ですが。やってみせましょう」
竹中はあくまで言う。
「あの城を無傷で陥としです」
「殿に気付いてもらうのか」
「そうします」
「そこまで言うのならじゃ」
安藤は竹中の話をここまで聞いてだ。
そのうえでだ。こう彼に告げた。
「やってみよ」
「そうして宜しいのですね」
「若し陥とされれば殿はそれまでの方ということ」
見極めをだ。安藤は最初に話した。
「それに充分じゃ」
「そしてお気付きになられなければ」
「やはりそれまでの方じゃ」
ここでもだ。安藤の言葉は見極めのものだった。
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