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戦国異伝

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第五十五話 美濃の神童その一


               第五十五話  美濃の神童
 美濃の主斉藤龍興は信長の宿敵と言えた斉藤義龍の子である。しかし。
 父殺しの汚名を被ったとはいえ戦においても政においても中々のものだった父に比べてだ。彼は暗君との評判が高い人物だった。
 朝から夜まで酒を飲み女達を侍らしだ。政に目を向けなかった。 
 無論戦の備えもしていない。その彼を見てだ。
 美濃の心ある者達は一様にだ。危惧を覚え囁き合うようになっていた。
「このままではな」
「うむ、危ういぞ」
「只でさえ尾張には織田がいるというのに」
「それに信濃には武田がおる」
「近江の浅井と六角は互いに争っている故に攻めては来ないであろうが」
「特に織田がおる」
「しかし龍興様があれでは」
 これに尽きた。
「今日も酒に女じゃ」
「政を見られることはないしのう」
「ましてや兵を率いられることもない」
「あれではじゃ」
「近いうちに破滅じゃな」
「斉藤も終わりじゃ」
 こう話していってであった。次第にだ。
 家臣達も国人達もだ。織田に走っていった。そうしてだ。
 美濃は南から徐々に織田に侵食されていっていた。それを見てだ。
 稲葉達美濃四人衆はだ。密かに集まりこう話し合うのだった。
「そろそろ機か」
「時が来たのであろうか」
「では殿の言われた様に」
 道三のことだ。彼等にとって主は今も彼のことなのだ。
「織田殿の家臣となるか」
「その時が来たのかのう」
 こう話してだ。彼等は信長の家臣になろうと決意しかけた。しかしだった。
 ここでだ。竹中が四人に言ってきた。
「御待ち下さい」
「むっ、待てというのか」
「となるとまだ機ではない」
「そうだというのか」
「はい、それがしはそう見ます」
 こうだ。しっかりとした口調で四人に話すのだった。
 そのうえでだ。竹中はこうも言った。
「まだ織田殿を見るべきです。それにです」
「それに?」
「それにというと」
「龍興様のことです」
 そのだ。暗愚と言われている彼のことも言ったのである。
「あの方についてもです」
「見切るのは早い」
「そう言うのか」
「はい、確かにそれがしもです」
 竹中の目が光った。そのうえで言うこととは。
「あの方はどうもです」
「そうじゃな。一国の主となられるべき方ではない」
「その器量はない」
「どう見てもな」
「されど。試したいことがあります」
 そうだとだ。竹中は四人にあくまで言うのであった。
「それをしてから。そして織田殿もです」
「まだ少し見る」
「そうすべきだというのじゃな」
「左様です」 
 まさにその通りだと。竹中はまた四人に話した。
「もう暫くです」
「して龍興様か」
「あの方じゃな」
「それがしに任せて頂けますか」 
 竹中は再び四人に話す。
「そうして頂ければ有り難いのですが」
「ふむ」
 まずはだ。安藤が応えた。
「殿を試すか」
「試すつもりはありませぬ」
「ではどういうことじゃ」
「殿に気付いて頂きたいのです」
 そうだとだ。竹中はその安藤に応えた。 
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