久遠の神話
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第十九話 高代の力その四
「それもかなりな」
「そうだな。しかしな」
「しかし。何だ」
「知ってるみたいな口調だな」
中田はだ。広瀬の今の口調からこう察したのである。
それでだ。その彼に言ったのである。
「過去にあったのかい?そんなことが」
「俺の話じゃないがな」
「見たんだな」
「醜い話だ」
そうだとだ。広瀬の声には忌々しげなものが加わっていた。そのうえでの言葉だった。
「それはな」
「そうか。見たんだな」
「直接体験したくない話だ」
「だよな。それは俺もだ」
「二人は今も絶好状態だ」
「そうか。今もか」
「もう関係が修復することはないだろう」
寂しい達観でだ。広瀬は述べた。
「残念だがな」
「成程な。しかしあんたにしてはな」
「俺にしてはか」
「随分親身になってるな」
クールな広瀬にしてはだ。そうだというのだ。
「というかあんたにも友達いるんだな」
「そうだ、いる」
実際にだ。いるというのだった。
「俺でも友人はいる」
「じゃあ意外といい奴なんだな」
「俺がいい奴か」
「悪い奴には悪い友人しかできないさ」
「俺の友人はいい友人か」
「何があったかわからないさ」
そのだ。喧嘩をした彼等はだというのだ。
「けれどそれでもな」
「わかるのか。連中のことが」
「何となくな。下らないにしても仕方ない理由で喧嘩したんだな」
「そうだ。御互いによかれと思ってだ」
「それで喧嘩してか」
「御互いに仲直りできないでいる」
そしてだ。そうなっている理由は何か。
広瀬はだ。このことを言ったのである。
「御互いに済まないと思っているからだ」
「やっぱりな。いい連中だな」
「俺が保障する。二人ともいい奴等だ」
「で、だ」
ここでだった。広瀬はまた言ったのだった。
「そのいい友人を持ってるあんたはな」
「いい奴だっていうのか」
「言っただろ。悪い奴には悪い友人しかできないんだよ」
そうなるというのだ。
「類は友を呼ぶってな。若しくはな」
「若しくはか」
「糞には糞蝿がたかるんだよ」
こう言ったのである。
「悪い奴には悪い奴が寄るんだよ」
「屑には屑か」
「ああ、そしてだ」
「逆にだな」
「花には蝶が寄るもんなんだよ」
笑ってこう言ってだ。そしてだった。
中田はだ。広瀬にあらためてこう言ったのである。
「いい奴にはいい奴なんだよ」
「俺は自分をいい奴と思ったことはない」
「だろうな。あんた自身はな」
「それでも俺はか」
「嫌な奴だったら俺と今こうして話をすることもないさ」
それがまずないというのだ。
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