戦国異伝
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第五十四話 半蔵の選択その八
「そういうことじゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ。そして小六よ」
蜂須賀にも声をかけてだった。
「御主もそうなるかのう」
「確かに。それがしもまた」
彼もだ。どうかというと。
「このままずっと国人で終わっていたやも知れませぬな」
「それもようであろうがな」
「しかし。それでも」
どうかというのだ。蜂須賀自身もまた。
「それは寂しいでござるな」6
「寂しいと申すか」
「はい、寂しいです」
そうだというのだ。寂しいとだ。
「それがし賑やかなものが好きなので」
「さすればじゃな」
「こうして殿と共にいて」
そしてだ。もう一人の名を挙げたのだった。
「あの猿めと共にいるのがです」
「面白いと申すか」
「それがし退屈が嫌いでございます」
このことも言うのだった。
「いや、国人の暮らしというものは」
「寂しいか」
「中々。少なくとも今の」
今のだ。それは何かというと。
「賑やかさはありませぬ」
「ははは、そうか」
「はい、ありませぬ」
まさにそうだというのだ。
「ですから今の方がです」
「よいか」
「それがしは忍ですが」
それでもだというのだ。ここが蜂須賀が普通の忍と違うところだ。
「それでもです。賑やかなことが好きですから」
「だからじゃな」
「はい、今がよいです」
笑ってこう信長に話すのである。
「まことに」
「ではじゃな」
「殿にお仕えして宜しいでしょうか」
「よい。存分に働け」
信長もだ。顔を崩して笑ってみせた。
そうしてだ。その顔で蜂須賀にこうも告げた。
「ではじゃ」
「それではでござるか」
「これから茶をどうじゃ」
茶にだ。彼を誘ったのである。
「茶室に入ってじゃ。どうじゃ」
「それがしが茶を」
「茶は誰でも飲める」
それこそが茶だというのだ。
「帝からその辺りの百姓までな」
「しかし殿とわしが同席などと」
「よいよい。茶の場では違う」
「そうなのでござるか」
「堺では茶を道にしようという者もおるらしい」
こんな話もだ。信長は蜂須賀に話した。
「そこまで深く見事なものであるが故にじゃ」
「茶を道にですか」
「面白いことじゃ」
信長はその笑みをさらに崩したものにさせてだ。
そうしてだ。また延べたのだった。
「道にまでなるのならじゃ」
「是非にですか」
「そうじゃ。なるべきじゃ」
こう言うのである。
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