久遠の神話
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第一話 水の少年その三
「中田さんっていうんだ」
「ふうん、それがあの人の名前か」
「そうなんだな」
このことをはじめて知ったのだった。
「あの人がな」
「そうなんだな」
「噂の二刀流の人なんだな」
「中田さんね」
上城もだ。彼の名前を呟く。そのうえでその名と強さを心に刻む。
これは無意識だがそうしてだ。蛍光灯、これだけは付け替えたのか新しいその灯りの中で照らされている彼の稽古を見てそうしたのだ。
そうしながらだ。彼はこう周りに話した。
「あの人ってさ」
「ああ、強いよな」
「本当に」
「バケモノみたいっていうか」
バケモノという言葉を訂正して。こう言うのだった。
「鬼みたいだね」
「それじゃあ意味同じじゃないのか?」
「バケモノと鬼だとな」
「似たようなものだろ」
「多分違うと思う」
だがだ。彼はこう友人達に話すのだった。
「それはね」
「じゃあ鬼か」
「あの人は鬼か」
「そうなのか?」
「そんな感じがするけれど」
今も稽古を、しかも休みなくする彼を見ての言葉だ。
「僕の気のせいかな」
「そうじゃねえのか?」
「幾ら何でもそこまでいかないだろ」
「鬼っておい」
「しかも言い過ぎだろ」
「そうだね。悪いよね」
言ってからだ。そのことに気付いた彼だった。
そして申し訳なくだ。こう言うのだった。
「じゃあ。言わないから」
「っていうか鬼なあ」
「そんだけ強いって意味だよな」
「そうだよな」
友人達は上城の言葉についてあらためて考えて述べもした。
「確かに桁外れの強さだよな」
「あんだけ強いと全国大会もいけるだろうな」
「前からあんなに強かったのか?」
その彼等も今見ているその圧倒的な強さ、まるで野獣の如き強さを見てだ。彼等もこう考えていった。
「っていうかあの強さそうそうすぐになるか?」
「戦い方も何かな」
「襲い掛かって切り捨てるみたいなな」
「そんなのだけれどな」
「すぐにああなるのかね」
「相当な修羅場積んでないか?」
一人がこんなことを言った。
「さもないとあそこまでなれないだろ」
「そうだよな。ちょっとやそっとじゃな」
「なれないよな」
「ああ、あいつね」
その彼等にだ。大学の剣道部員が言ってきたのだった。防具を着けたままだがそれでもだ。彼等に対してこう言うのだった。
「最近急にだよ」
「急になんですか」
「強くなったんですか」
「そうなんですか」
「いや、前からかなり強かったよ」
それは事実だというのだ。
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