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久遠の神話

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第十六話 上城の迷いその十二


「豚骨もあれば味噌だってあるぜ」
「豚骨ですか」
 ここで声をあげたのは樹里だった。ついついだ。
 そしてだ。こう中田に問うたのである。
「大学の方には豚骨ラーメンあるんですか?」
「あるけれど。君ひょっとして」
「はい、豚骨ラーメン大好きなんです」
 目を輝かせてだ。こう言うのだった。
「あの白いスープがとにかく好きで」
「そうだったんだな。ちょっと意外だな」
「意外ですか?」
「豚骨って濃い味だからな」
 それで人気があるのだ。青少年を中心として。
「だから女の子が好きってのはな」
「まあ縁で」
「縁?」
「母の親戚、私から見ても遠い親戚ですけれど」
 その人からの話だというのだ。
「その人が九州生まれで」
「ああ、それでなんだ」
「はい、豚骨ラーメンを食べさせてもらって」
 それでだというのだ。
「好きになったんです」
「じゃあちゃんぽんも好きなんだな」
「長崎ちゃんぽんですね」
「それはどうかな」
「はい、好きです」
 その大きな目を細めさせてだ。樹里は答える。
「お野菜がたっぷりと入って美味しいですよね」
「九州だね、完全に」
「そうですよね。九州ですよね」
「そういうことか。じゃあその豚骨も食べるといいさ」
 中田は屈託のない笑顔で樹里に話した。
「その時はな」
「わかりました。それじゃあ」
「その時は俺も呼んでくれよ」
 中田はまた話す。
「それじゃあ宜しくな」
「はい、それじゃあその時は」
「宜しくお願いします」
 ラーメンの話題を最後にしてだ。中田は去った。そうして二人になってからだ。
 上城はだ。釈然とせずそうして苦いものも含んだ難しい顔になってだ。樹里に話すのだった。
「中田さんはとてもいい人だけれど」
「その人とも」
「戦うしかないのかな」
 その顔で話すのだった。
「やっぱり」
「だったらどうするの?」
「わからないんだ」
 首を横に振ってだ。また言う彼だった。
「本当に今は」
「そうなのね」
「どうしたらいいのかな」
「考えても考えてもなのね」
「今はわからないんだ」
 光が見えない、そんな感じだった。
 その暗闇の中でだ。彼はまた言う。
「戦うべきなのか、そうでないのか」
「それをどうするかね」
「うん、どうしようか」
 どうしてもわからないままだ。彼は今は戦いの場を後にしたのだった。そうして日常に戻るがそれでもだった。迷いは消えないのだった。


第十六話   完


                   2011・11・28 
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