戦国異伝
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第五十一話 堅物のことその一
第五十一話 堅物のこと
信長は城の己の部屋において帰蝶にだ。こんなことを言われていた。
「竹千代がどうした者か知りたいと申すか」
「はい」
その通りだとだ。帰蝶も答える。
「一体どの様な方でしょうか」
「桶狭間の時は会ってはおらんが」
それでも今の彼は知らないというのだ。直接にはだ。
だが佐久間大学や木下兄弟の話を聞いたうえでだ。こう話すのだった。
「中々戦上手じゃな」
「戦にお強いのですね」
「あの時は砦を攻めて随分と悩まされた」
そうだとだ。その砦の戦いのことを話すのである。
「何とか持ち堪えたがな」
「それでもやはり」
「うむ、わしの知っている竹千代とはそこが大きく違う」
「殿のご承知といいますと」
「聞いておろう。あ奴はかつて尾張に人質に来ておった」
話すのはこのことだった。
「あの時はわしも幼かったがじゃ」
「幼い頃の思い出ですね。ご幼少だった時の」
「そうじゃ。その時じゃが」
「はい」
「素直で大人しかったのう」
彼の記憶にある家康はだった。まさにそうした感じだったのだ。
その時のことを思い出しながらだ。帰蝶にさらに話す。
「人としての筋はよかった」
「人としてですか」
「あのまま伸びておれば」
どうかというのだ。今の家康は。
「きっと大きな者になっておるな」
「では殿と同じ様に」
「竹千代は堅物じゃがそれでもだ」
「人としての器は」
「わしと同じだけ大きくなっておろう」86
そこまでだというのだ。信長は家康については話し続ける。
「さすれば手を結ぶに足る」
「殿と比べてもそれだけの方になっておられますか」
「きっとな。しかしじゃ」
「しかしといいますと」
「堅物であって欲しい」
こうだ。信長は首を少し捻って述べたのだった。
「是非な」
「堅物であってですか。家康殿は」
「そうでなければよくない」
「それはどうしてでしょうか」
「わしがこうして傾いておるからじゃ」
それでだというのだ。
「竹千代はその分堅物であってもらいたいのじゃ」
「傾奇と堅物ですね」
「傾いておるだけでもいかんし堅いだけでもいかん」
それぞれだ。片方だけではだというのだ。
「やはり。それに加えてじゃ」
「もう片方があるべきですね」
「それでよい。釣り合いが取れる」
信長は脳裏に天秤を描きながらそのうえで帰蝶に話す。
「それでこそじゃ」
「そこまでお考えでなのですか」
「そうなのじゃ。だからこそ竹千代は」
「必要ですね」
「堅物のあ奴がのう」
「堅物といえば」
ここで帰蝶は彼等のことを思い出して言った。
「平手殿や柴田殿」
「そして勘十郎じゃな」
「そうした方々もですね」
「爺が一番じゃな」
織田家きっても堅物という意味においてということだ。
「あの頑固さには昔から参っておる」
「では勘十郎殿は」
「あれは案外話がわかる」
弟だけあってだ。信長は彼のこともよくわかっている。
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