久遠の神話
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第十四話 水と木その六
そうしてだ。慌てて取り繕うのだった。
「何でもないといいますか」
「何でもないんですか?」
「そうなんですか?」
「はい、それよりもです」
いぶかしむ二人にだ。聡美は自分のペースに入れることでそのいぶかしみをそらそうとかかった。それで彼等にこんなことを言うのだった。
「上城君はです」
「はい、生きることですね」
「剣士の人達を前にしてはそのことを考えて下さい」
「わかりました。それで怪物達に対しては」
「絶対に勝って下さい」
戦いそうしてだというのだ。
「上城君なら大抵の怪物を倒せます」
「わかりました。それじゃあ」
「かつて怪物に敗れた剣士はいません」
「あっ、いないんですか」
「苦戦したことはあってもです」
敗北はなかったが苦戦はあったというのだ。
「剣士それぞれがそれだけの技量を持っていましたし。それにです」
「それに?」
「剣士の相手はあくまで剣士です」
こうもだ。上城に話したのである。
「怪物達ではないので」
「そこで敗れることはですか」
「あの方々にも意地がありましたし」
技量だけでなくだ。それもあったというのだ。
「ですからどなたもです」
「怪物達にはですか」
「遅れを取りませんでした」
「あれっ、じゃあ」
その話からだ。樹里はあることに気付きだ。実際にそのことを聡美、他ならぬ彼女に対して尋ねたのだ。その尋ねたことはというと。
「剣士の方々は剣士の人に対してだけですね」
「はい、敗れています」
「剣士の敵は剣士なんですね」
「そうです。まさにそうです」
「怪物は敵でもですか」
「真の敵ではないです」
剣士の主な敵はやはりだ。剣士だというのだ。
「人間の敵は人間です」
「そしてその敵と戦い」
「これまでは生き残った一人の者がその望みを適えてきました」
それが剣士同士の戦いだったというのだ。聡美はさらに話す。
「神話の時代からそうしてきました」
「それこそ気の遠くなるまでの間」
「そうされてたんですか」
「本当に無益でした」
悲しい顔になっていた。聡美のその顔は。
「何も生み出しませんでした」
「生き残った彼等の望み以外は」
「それ以外はですか」
「そうです。何も生み出しませんでした」
欲望、それ以外はだというのだ。
「しかしそれはやがて終わるべきで」
「そうしてそれがですか」
「今なのですね」
「はい、そうです。今なのです」
まさに今だとだ。聡美は上城と樹里に話した。
そうした話をしてだった。聡美は自分の飲みものを飲み。それからだった。
店を出る。そうして共に店を出た上城と樹里にこう言うのだった。
「ではまた」
「はい、またお話して下さい」
「戦いのことを」
「私の知っていることなら何でも」
店の出口のところでだ。聡美は微笑んで答えた。
「お力になれれば」
「とにかく。生き残ることですね」
「はい、最後の最後まで」
それは絶対だとだ。また言う聡美だった。
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