戦国異伝
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第四十九話 認めるその三
「魏徴という家臣を大事にしておったがな」
「その者が平手殿ですか」
「そういうところじゃ。やはり誰か諫める者がいなくてはな」
「だからこそ平手殿は必要ですか」
「そうじゃ。それにおらぬと」
「おられぬとなると?」
「あれ程寂しい者はおらんだろう」
平手はそうした者だというのだ。
「おると大層口煩いがのう」
「確かに。あの方はおられぬと」
「寂しいな」
「そう思うと不思議な方です」
「正直思う」
ここでまた言う信長だった。
「爺と勘十郎がおらぬとわしは中々じゃ」
「上手くいかれぬと」
「そうじゃ。二人共戦は不得手じゃが」
「しかし政は」
「文が見事じゃからな。だから頼りにしておる」
「文ですか」
森もだ。文について考えた。
そのうえでだ。信長に幾分申し訳なさそうな顔になってこう述べたのだった。
「それがしはどうも文は」
「何を言う、わしの言ったことは常にこなしておるな」
「ですがそれ以上ではありませぬ」
「そなたは武もある。武ではかなりのものではないか」
「では」
「御主はそれでよい」
こう森に対して言うのである。
「充分じゃ」
「有り難き御言葉」
「だからじゃ。今後も頼むぞ」
「はっ、畏まりました」
こうした話をしてだ。信長は報を受けたのだった。
そしてその雪斎は伊勢や志摩においてだ。見たのだった。
まずだ。田畑は。
「ふむ。これは」
「見事でございますな」
「実にのう」
こうだ。供をしている小僧に言うのだった。彼の弟子である。
彼は馬上において田畑を見ながらだ。思わず唸ったのである。そのうえで馬の口を引いている小僧にだ。こうも言ったのである。
「尾張も見事じゃったが」
「伊勢もそれに近付いておりますか」
「手中に収めてすぐに政にかかるか」
雪斎はそのことについても考えて述べた。
「普通は少し時を置くがじゃ」
「織田殿は動きが速いですな」
「速いだけではない」
それに留まらないというのだ。
「さらに的確じゃ」
「的確ですか」
「田畑の広さも一つ一つの割り当てもじゃ」
そうしたことまで見て言うのだった。
「それに堤も整えておるしな」
「そういえば川も」
そこにはもう堤が築かれようとしていた。それも行われていたのだ。しかもその川にはだ。見事な橋までかけられているのだった。
そうしたところまで見てだ。雪斎は唸った。
「よいのう」
「堤を築いておりますな」
「見事じゃ」
それがだ。見事だというのだ。
「尾張だけではないか」
「こうして伊勢や志摩も」
「この国々も豊かになる」
雪斎はまた言った。
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