戦国異伝
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第四十八話 市の婿その七
「ですが人の話を聞いていると」
「それも学問ですね」
「学問は書で学ぶだけでなくです」
「人の話からも」
「そう思いますが」
「そういえば兄上は」
市はまた信長のことを考えた。彼はどうかというとだ。
「何かと人のお話も」
「殿もそうされていますね」
「だから私もですか」
「そうされるとよいかと」
木下の顔はここでは屈託のない笑顔に戻った。
「さすれば多くのものを得られます」
「人としてですね」
「左様です。それでなのですが」
ここまで話して木下は言葉を一旦止めた。そしてそのうえでだ。
周囲を見回しだ。供の者達に尋ねた。
「小谷城までどれ位じゃな」
「はい、それは」
「あと三日進めば見られます」
「堅固な山城と聞く」
木下の顔が変わった。武将のそれにだ。
「さて。何処まで堅固なのやら」
「あの稲葉山城に匹敵すると聞いております」
「観音寺城にも」
近江の六角の城だ。この城も堅固で有名である。
「山をそのまま城にしております」
「そして幾つにも分かれております」
「本丸や二の丸だけでなく」
木下はさらに考えていく。そのまだ見ぬ小谷の城のことをだ。
「幾つもか」
「そうした城ですから」
「登るだけでも苦労するとのことです」
「わかった。戦をするのに向いた城じゃな」
木下は小谷城のことをこう評した。
「しかし政にはいささか苦労しそうじゃな」
「政にはですか」
「左様ですか」
「山城より平城の方が政をしやすいところがある。まあそれでも稲葉山は政もしやすい城じゃが」
稲葉山城はそうだというのだ。政をしやすいというのだ。
「場所も関係があるからのう」
「では小谷は」
「あの城は」
「少し外れた場所にあるしやはり政には向かぬかもな」
また言う。小谷城はそうであるとだ。
「そこが問題になるかのう」
「政に向く城もありますか」
「左様なのですか」
「戦に向く城があるのと同じじゃ」
そうした意味で戦と政は同じだというのだ。木下はこう考えているのだった。
「一番よいのはどっちにも向いておる城じゃな」
「戦にも政にも」
「そのどちらにも」
「ちと贅沢な話であるが」
それでもだ。最もよいというのだ。そうした城が。
「何処かに築けば。織田も安泰じゃろう」
「ううむ。それはまた凄い城ですな」
「戦も政もできる城とは」
「そうした城とは」
「まあ築くのは確かに難しい」
このことは木下もわかっていた。どちらもできる城というのはだ。
「じゃが。築けば」
「築けばそれで」
「織田は」
「天下を治められる」
その城からだというのだ。
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