久遠の神話
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第十一話 意外な素顔その十一
しかしだ。彼はすぐに怪訝な顔になって聡美に尋ねた。
「けれどな」
「けれどといいますと」
「最近か?それって」
そのことをだ。尋ねたのである。
「二百年とかそんな時間って」
「あっ・・・・・・」
ここでだ。ようやく気付いた聡美だった。それでだ。
慌てて取り繕いだ。こう中田に話した。
「言葉のあやです」
「あや?」
「はい、言葉のあやです」
そういうことにするのだった。そうしてであった。
あらためてだ。中田にこう話した。
「最近ではないですね」
「そうだよ。二百年ってな」
中田は人間の時間の観点から話す。
「日本じゃ江戸時代だからな」
「江戸時代。あの刀やちょん髷の時代ですね」
「それ考えたらかなり昔だよ」
「そうですね。人の時間では」
「人の?」
「そうなりますね」
「まあそうだよな。人間なんて百年も滅多に生きられないしな」
中田は今度は気付かなかった。それでだ。
気付かないままだ。彼は聡美にこう言った。
「とにかくパスタな」
「はい、パスタを」
「俺も作るからな。とびきり美味いのを」
「そうされますね」
「どうせなら皆で食うか」
それでこんなことも言うのだった。
「あんたも。それに」
「上城君達もですね」
「あの子達も読んで食うか」
これが中田の言葉だった。
「そうするか。今度は」
「そうですね。食べるのならですね」
「人数が多い方が美味いよな」
「そうしましょう。私も実は」
「あんたも?」
「かつては兄様やお姉様と一緒に食べました」
中田に清らかな微笑みと共に話す。
「ギリシアにいた頃は」
「じゃあ皆で食うのも」
「好きです」
中田にこうも話す。
「そうします」
「じゃあ今日の夜俺の家でな」
「上城君達にも電話をかけてですね」
「そうしような」
「四人で食べますか」
「どうせだからあの人達も呼ぶか?」
中田はふと考えてだ。こうも言った。
「工藤さんや高橋さんもな」
「あの方々もですか」
「ああ。大勢で楽しく食おうぜ」
そしてだ。彼はこんなことも言った。
「あと酒もな」
「ワインですね」
「パスタっていったらやっぱりな」
「ワインですね」
「それも赤な」
中田は笑って話していく。
「それだよな」
「ワインは神の酒です」
聡美はワインについてこうも言う。
「飲めばそれだけで幸せになります」
「主の血だったか?」
中田は聡美の話からこんなことも言った。
「確かそうだったよな」
「それはキリスト教でしたね」
「ああ、そうだよ」
「キリスト教はです」
何故かここでだ。聡美は暗い顔を見せた。
そうしてだ。こんなことを言うのだった。
「あくまで宗教の一つですから」
「あれっ、けれどギリシアって確か」
「キリスト教の国だというのですね」
「正教だよな、確か」
「はい」
一応はそうだという。そうした頷きだった。
「それはそうですが」
「じゃあキリスト教のその考えは」
「あるにはありますが」
「あるには?」
「ワインは神の飲み物です」
聡美はあくまでこう言うのだった。
「主の血よりもです」
「そっちだっていうんだな」
「はい、神の飲み物ですから」
「じゃあその神の飲み物をだよな」
「用意しておきますので」
聡美の方でだ。それは用意するというのだ。
「中田さんはパスタをですね」
「ああ。まあソースは俺が作るからな」
「わかりました。それでは」
「楽しみにしておいてくれよ」
「そうさせてもらいます」
こうした話をしてだった。彼等は。
中田の作ったそのパスタとワインを楽しむことにした。それも大勢で。
第十一話 完
2011・10・14
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