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久遠の神話

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第十一話 意外な素顔その十


「そうしてるんだよ」
「どんなものを作られますか?」
「色々だな」
「特に決まっていないんですか」
「身体にいいものは食えるようにしてるさ」
 それはしているというのだ。
「ただ。人様に食える様なものじゃないぜ」
「味は」
「細菌作りはじめたんだ。わかるよな」
「そういうことですか」
「まあ期待するような味じゃない」
 ここでは苦笑いで述べる彼だった。
「そんな感じだよ」
「何となくですけれどわかった様な」
 聡美はあえて曖昧な返事で返した。そうしてだ。
 彼女もだ。今はだった。
「では私も帰って」
「あんたのマンションにだな」
「それで夕食にします」
 そうするというのである。
「ギリシア料理で」
「ギリシアねえ」
「若しくはイタリア料理を」
 もう一つあった。この国の料理だ。
「その二つが私の作る主な料理です」
「へえ。オリーブばっかりだな」
「はい、オリーブは大好きです」
 実にギリシア、ひいては地中海らしい言葉だった。
「いつも使います」
「じゃあ俺も今度はな」
「中田さんもですか」
「オリーブを使った料理作るか」
 こう言ったのである。
「そうするか」
「オリーブとですね」
「ああ、大蒜な」
 それも忘れていなかった。彼はイタリア料理を意識して言う。
「その二つでな」
「オリーブと大蒜を使って」
「ああ、パスタでも作るか」
「いいと思います。私もパスタは大好きです」
 聡美の好物がここでわかった。彼女は笑顔で言うのである。
「最近になって出て来た料理ですが」
「最近?」
「はい、スパゲティが出来たのは本当に最近で」
 聡美は自分の言葉にだ。ここでも気付いていなかった。
 それでだ。こんなことを言うのだった。
「パスタにチーズをまぶして手で食べていました」
「へえ、そうだったのか」
「はい、そうでした」
 そのスパゲティ、初期のそれの話が続けられる。
「一旦高々と掲げてそのうえで」
「食べてたんだな」
「ナポリからはじまりました」
「ああ、イタリアの南の」
「それは他のパスタも同じですが」
 マッケローニ、フェットチーネに似た幅の広いパスタはルネサンスの頃からあった。そのパスタにしてもナポリからはじまっている。パスタはそこからなのだ。
「スパゲティもナポリからはじまっています」
「そうだったんだな」
「今の様にフォークを使って様々なソースに絡めて食べるのも」
「最近か」
「そうです。まだ二百年も経っていないです」
「成程な。わかったぜ」
 ここまで聞いてだ。中田は納得した顔で頷いた。 
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