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戦国異伝

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第四十七話 伊勢併呑その十三


 彼が残していった話は大きかった。まさにそれであった。
「徳川かあ」
「その徳川家ということにして」
「そうしていけばいいのか」
「成程のう」
「してどうされますか」
 家臣達は元康にあらためて尋ねた。
「殿としましては」
「やはりその徳川とですか」
「名乗られますか」
「うむ、そうするか」
 元康もだ。それに乗ろうと考えるのだった。こんな話をしてであった。
「少し考えてからじゃ」
「徳川とされるかどうされるか」
「決められますか」
「うむ。しかし氏真殿は」
 その食客の彼がだ。どうかというのだ。
「あれで言われるな」
「はい、意外とですな」
「見ておられますし言われます」
「鋭いところもありますな」
「幼い頃からじゃった」
 人質として駿河にいていたからこそだ。このことはよく知っているのだった。
「そうした方じゃった」
「確かに。あれで妙にです」
「色々なことを見ておられますし」
「悪い心は持っておられませぬし」
「よい方ですな」
「嫌いではない」
 それはだ。元康もだというのだ。
「むしろ人質のわしに和上と共によくしてくれた方じゃ」
「何かと遊んで下さいましたな」
「そうしたこともしてくれましたし」
「だから三河にいてもじゃ」
 別にだ。どうということはないというのだ。
「よいと思っておったが」
「ここでその徳川の名を出されるとはです」
「まことに意外でした」
「しかしこれはですな」
「我等としては」
「乗るべきだというのじゃな」
 元康は家臣達の言葉を聞いてだ。静かに言うのだった。
「徳川にじゃな」
「では徳川元康ですな」
「そうした名になりますな」
「ううむ、徳川元康か」
 家臣達にその名前を言われてだ。
 元康は袖の中で腕を組みだ。どうもという感じでこう言うのだった。
「それでは少し違うのう」
「名前がよくありませんか」
「どうも」
「松平ならよいのじゃが」
 姓がそれで名が元康ならばいいというのだ。しかしだ。
 徳川ならばどうかとなりだ。彼は言うのであった。
「徳川だとしっくりいかぬのではないか?」
「そうなりましょうか」
「確かに。言われてみれば何か違う様な気もしますな」
「しっくりいかぬというか」
「そうした感じに」
「他の名にすべきか」
 また言う元康だった。
「どうした名前がよいかのう」
「では殿」
 ここで言ったのはにこやかな顔の男だった。彼の名を石川数正という。本田、酒井と並ぶ松平家の重臣の一人である。 
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