戦国異伝
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第四十七話 伊勢併呑その十二
「それが終わって城に入ったらじゃ」
「我等が話をしていて」
「それを聞かれたと」
「そういうことじゃ。政とかそういう話なら去っておった」
最早食客に過ぎぬからだ。そういうことは弁えている氏真だった。
だが、だ。ここで彼はこう言うのだった。
「しかし竹千代の姓じゃな」
「はい、それです」
まさにそれだとだ。元康も答える。
「どうしたものがよいかと思いまして」
「なら一つよい家があるぞ」
「よい家とは」
「新田氏の家臣にじゃ」
新田義貞のことだ。南北朝の頃の武将の一人である。
「徳川氏というのがおった」
「徳川!?」
「そんな家があったのですか」
「そうじゃ。源氏の流れを汲む家でじゃ」
氏真は元康とその家臣達にさらに話す。
「断絶しておったがそこの縁者ということにすればどうじゃ」
「家系図は適当にですか」
「そうされよと」
「家系図はどうでもいいじゃろ」
この辺りは実際にいい加減な家も多い。今川家は源氏の名門であるがそれでもこのことはいいとしてそのうえで話をするのだった。
「どうとでもなるしのう」
「そこは適当にですか」
「してもよいと」
「実際源氏の血は流れておるじゃろ」
氏真はまた言う。そのまた言った言葉もこうしたものだった。
「だからよいじゃろ」
「そういうことですか」
「では適当にですか」
「家系図については」
「大事なのはあれじゃ」
何がだ。大事かというとだ。
「その家の末裔だと認めてもらうことじゃ」
「その徳川家ですか」
「あの家の」
「そうじゃ。まああれじゃのう」
どうかとだ。氏真の話は続く。
「朝廷の方々に認めてもらうことじゃ」
「朝廷ですか」
「朝廷にその徳川家とですか」
「認めてもらうことですか
「近衛殿辺りがよいじゃろう」
五摂家の一つのだ。その家がいいというのだ。
こう話してだ。そのうえでだった。
「源氏なら麿の親戚になるのう」
「あの、どれだけ遠い親戚なのですか?」
「左様です」
そのことにはすぐに突っ込みを入れた松平の家臣達だった。
「同じ源氏といっても。今川殿とその徳川家では」
「最早親戚とは呼べないのでは」
「まあそうじゃな」
言われてだ。納得して頷く氏真だった。
そしてそのうえでだ。彼はまた話した、
「してじゃ。よいか」
「はい、それではですね」
「その徳川家ということをですね」
「朝廷に認めてもらうのですか」
「そうするといい。では麿はじゃ」
気軽にだ。氏真は今度はこんなことを話すのだった。
「今から和歌じゃ」
「今度は和歌ですか」
「それを楽しまれますか」
「身体を動かした後で和歌をやるとよいのじゃ」
「そういったものですか」
「頭を動かすのは身体を動かしてからですか」
「これが中々よいのじゃ」
そうだとだ。氏真は話してだった。
自分の話を終えてだ。彼は本当に和歌をしに部屋を後にした。しかしだ。
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