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戦国異伝

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第四十六話 寿桂尼その七


「ですから」
「私だけでもない」
「何があろうと。御護りします」
 そうするというのだ。忠誠心は健在だった。
「ですから」
「それではですね」
「はい、お任せ下さい」
「では私はです」
 どうするかとだ。寿桂尼は意を決した顔になるのだった。
 そうした話をしてだ。彼等はあらためて信長に向き直りそのうえでだった。
 信長に対してだ。寿桂尼が話した。
「それではです」
「どうされるか」
「御願いします」
 一礼してからだ。信長に話すのである。
「信長殿の好意を」
「そうして頂けるか」
「はい、それでは」
「うむ。では何の憂いもなく過ごされよ」
 信長もだ。満足して応えるのだった。
「この国で」
「そうさせてもらいます」
 こうしてだった。寿桂尼は尾張の中でも名のある名刹に入りそのうえで穏やかに過ごすことになった。その近くにある寺にだ。
 義元と氏真も移されてだ。そこに雪斎達が向かうことも許された。
 雪斎は晴れて主と再会することができた。見ればその姿は。
「殿、お元気そうで何よりです」
「うむ、確かに捕らえられておる」
 それは確かだと答える義元だった。しかしだ。
 服もいいものを着ており髷も眉も整えている。無論髭も丁寧に剃られており歯黒も塗られている。いつもの義元がそこにいた。
 無論氏真もだ。何の乱れもない。まるで駿府にいる様な姿でだ。雪斎達の前にいた。
 そしてであった。彼等は義元にさらに話すのだった。
「しかし。あの織田信長という男」
「思ったよりも礼節を弁えているのでしょうか」
「無作法なうつけ者と思っていましたが」
「違いましたか」
「うむ、麿もじゃ」
 その義元もだ。こう言うのだった。
「実際にそう思っておった」
「あの者がうつけ殿だと」
「そうですな。あれではです」
「そうとしか思えません」
「それは天下に知られていました」
 それだけだ。信長の傾奇者ぶり、それを知らぬ者からはうつけぶりは知られていたのだ。雅を尊ぶ今川家では傾奇は知られていなかったのだ。
 その為にだ。彼等は信長を見誤っていた。そのことをだ。雪斎が言うのだった。
「殿、尾張に入って気付いたのですが」
「奇妙な身なりの者が多いのう」
「はい、かなり」
 こう言うのである。
「どうやらあれはです」
「何でも傾奇者というらしいのう」
「はい、左様です」
「妙な連中じゃ」
 義元は首を捻りながらその彼等のことを話す。
「何じゃ?尾張だけかあの連中は」
「どうやら他の国にも。都にも近頃は」
「おるのか」
「しかし尾張程多い国はありますまい」
 雪斎も首を捻りながら言う。
「特に前田慶次という者ですが」
「あの者か」
「はい、あの大男です」
 慶次のその大柄さも話される。
「とにかく何から何まで派手で」
「あんな者は駿河にはおらんかった」
「遠江にも三河にもです」
「麿は風流や雅が好きじゃ」
 とにかくだ。そうした世界こそが義元の世界だ。元々駿河は都落ちした公卿達が集ってきていた。それで駿府は小京都とさえ呼ばれているのだ。 
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