戦国異伝
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第四十五話 幸村先陣その十
「そして私も驚いているのですが」
「織田家から。話が来たことですね」
「まことに思いも寄りませんでした」
寿桂尼もだ。それは想像もしていなかった。
「織田信長殿はうつけ殿ではなかったのですね」
「うつけ殿どころかです」
「恐ろしい方だったのですか」
「だからこそ敗れたのでしょう」
雪斎はまた厳しい顔で話した。
「今川は」
「左様ですか」
「そして織田信長ですが」
雪斎はさらに話すのだった。信長のことをだ。
「寿桂尼様のことをです」
「私を。引き取ってですね」
「その全てを賭けて御護りすると言っています」
「私の命なぞ惜しくはありませんが」
「いえ、それは」
「偽りは言葉に出しません」
寿桂尼の言葉はだ。強いものだった。
「私とて今川の者なのですから」
「だからですか」
「義元殿と氏真殿の御命は私が」
「救われますか」
「その為にも向かいましょう」
そのだ。尾張にだというのである。
「是非。信長殿にと思っています」
「尾張の蛟龍と言われています」
信長のこの通り名についてはだ。雪斎も知っていた。
ここでその名を出して寿桂尼にだ。信長の資質を話すのだった。
「恐るべき者です」
「うつけ殿ではなかったのですか」
「間違いなく」
こう話してだ。寿桂尼に注意を促すのだった。
「ですからお話されるにしてもくれぐれも」
「わかっています。まさに命をです」
「おかけになられたうえで、ですか」
「はい、信長と会いましょう」
「拙僧も御供させて頂きたいのですが」
雪斎はこう願い出た。ここでだ。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「和上もですか」
「はい。宜しければですが」
「わかりました」
寿桂尼も答えた。それでいいとだ。
こう述べてからだ。彼女はこうしたことも話した。
「和上は信長殿にはですね」
「やはり。只ならぬものを感じています」
まさにだ。そうだというのだった。
「ですから。尾張では何としても」
「義元殿と氏真殿をですね」
「この身にかえてもです」
その為に尾張に行く。その気概も見せての言葉だった。
「そうさせて頂きます」
「わかりました。それでは」
「その様に御願いします」
「はい。それにしても今川が滅びるとは」
寿桂尼はこのことにはだった。何度もだった。
嘆息してだ。そうして言うのだった。
「思いも寄りませんでした」
「栄枯盛衰は世の常とはいえ」
「駿河が武田殿のものになりました」
「はい」
「では。これからは武田殿でしょうか」
寿桂尼は豊かな駿河を手に入れたことにより武田が今後天下において覇を唱えていくようになるのではないか思ったのである。
しかしだ。ここでだった。
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