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戦国異伝

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第四十五話 幸村先陣その五


「今言ったまでだ。わしは御館様と天下の為に戦うのみだ」
「御見事です。その殿だからこそです」
 そうだとだ。霧隠が言う。
「我等もお傍にいたくなります」
「その通りですな。殿は危ういところもありますが」
 それでもだとだ。三好清海が話す。
「そのまっすぐなことがよいのです」
「一途。いえ純粋ですな」
 それだと話したのは根津である。
「殿は何処までもそうでござる」
「この戦国の世。それこそ松永弾正や宇喜多直家の如き者がおります」
 穴山は彼等のことを忌々しげな口調で述べた。
「ですが殿はその知略も純粋でござる」
「正しきところに使っておられます」
 そうだとだ。話したのは望月だ。
「武勇もそうでございますし」
「乱れた世を正すのは何か」
 筧はそのことについて話す。
「それは正しき心にございます」
「殿程それがおありの方はおられませぬ」
 三好伊佐の言葉だ。
「我等とて人は選びますぞ」
「左様、殿でなければ」
 由利もだった。
「真田家だからです」
「我等、殿が大好きでござる」
 最後に言ったのは猿跳びだった。
「どうして共におれましょうか」
「好きというのか」
「左様、やはり殿でなければ」
「我等も信濃におれませぬし」
「他の国に行っておりましたぞ」
「わしは人気があるのか」
 自分ではだ。自覚していない言葉だった。
「そうなのか」
「そのことは保障します」
「殿を嫌う者はそうはおりませんぞ」
「我等だけではありませぬ」
 十勇士達は話すのだった。幸村を本当に慕っているのがわかる。
 こうした話をしながらだ。出陣し駿河に攻め込む。その武田軍の前に立ちはだかるのは。
 殆んどいなかった。兵の殆んどを尾張に向けていてだ。残っている者は殆んどいなかった。義元の侵攻がここでは仇になった。
 信玄はそれを見てだ。冷静に話すのだった。
「今川の兵は駿河に戻ってきておるな」
「はい、雪斎殿が戻してきておられます」
「確かにです」
 高坂と山本が信玄に話す。今彼等は本陣にいる。そこで地図を開きながら話すのだった。
「ですがその足は速くはありませぬ」
「織田との戦で敗れたことが大きいかと」
「大きいであろうな」
 それもその通りだとだ。信玄も話す。
「やはりあれだけの敗北となるとな」
「兵をまとめるだけでもですか」
「厄介になっていると」
 二十四将達もここで言う。彼等は今本陣に詰めているのだ。
 その中でだ。細面に強い顔立ちの男、山県が信玄に言う。
「御館様、それではです」
「そうじゃ。幸村を駿府まで向かわせよ」
 そのだ。先陣の彼をだというのだ。
「駿府に兵はおるか」
「ほぼおりませぬ」
 山本が答える。
「辿り着けばそれで、です」
「陥ちるな」
「はい、陥ちます」
「では陥としてからじゃ」
 さらにだというのだ。信玄の頭の中で今兵が動いていた。
 その彼等の動きを把握しながらだ。山本に話すのだった。
「遠江との境にまで進めと伝えよ」
「遠江との境までですか」
「相模との境までにも兵を出す」
 そちらにもだ兵を出すことを忘れない。 
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