戦国異伝
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第四十三話 清洲に帰りその九
「それがしにとっては遊び場ですので」
「それでじゃな。さすればじゃ」
「海のことはお任せを」
「陸だけではなく海もまた大事じゃ」
信長は言っていく。
「何しろ尾張と伊勢は海でもつながっておるからのう」
「それではです」
ここで言ったのは明院だった。
「海の商人達もですか」
「無論あの者達にも商いをさせる」
信長は明院にもすぐに述べた。
「そのうえで船を行き来させる」
「陸だけではなく」
「海もとは」
「陸だけの富は限られておる」
こうも言うのだった。
「そして漁もさせる」
「おお、それでも豊かになりますか」
「漁でも」
「国を豊かにさせる方法は多い」
ただ田畑を開墾し町を栄えさせるだけではないというのだ。
「海もある。では伊勢じゃ」
「はっ、畏まりました」
「ではその伊勢を手中に収め」
「そのうえで」
「駒を進めていくぞ」
こうした話をしてだった。信長は宴での茶を楽しむのだった。
織田は戦に勝った。しかしそれに浮かれてはいなかった。むしろこれがはじまりだった。
実際にだ。伊勢にはだ。彼が送った者達が盛んに国人達の間を行き来してだ。彼等を一つずつ、だが確かに引き入れていっていた。
その中でだ。平手率いる織田の主力も清洲に戻った。平手は信長に拝謁してからすぐにこう言った。
「まずはおめでとうございます」
「言うのかそれだけか?」
「他にはありませぬ」
謹厳そのものの言葉であった。
「何故ならです」
「わかっておるわ。一つ勝った位でじゃな」
「左様、浮かれてはなりませぬ」
こうだ。実に平手らしく言うのであった。
「くれぐれもこれに慢心なされませぬよう」
「わかっておる。よいか爺」
「はっ」
「わしは既に手を打っておる」
こう平手に対して話す。
「伊勢にな」
「左様ですな。それは聞いておりまする」
「伊勢に志摩じゃな。それとじゃ」
「虜としている今川の者達ですな」
「主と跡継ぎもな」
義元と氏真のことに他ならない。
「来るぞ、他にも」
「来るとは」
「主を心配して今川の者達がここに来る」
そうなるというのだ。信長は平手に対して先を読んでいるかの如き言葉で話していく。実際にその目は先まで洞察しているものだった。
「その者達は最早居場所がないのう」
「お話は聞いておりまする。駿河は武田のものになりますか」
「今頃兵を出す用意をしておるわ」
まるで甲斐、その国に実際にいるかの如きであった。信長は武田の動きもだ。完全に読み取ってそのうえで平手に話しているのだ。
そのうえでだ。彼はこうも話した。
「駿河は空じゃ。今川の国自体がじゃ」
「さすればまさに草刈場」
「草を刈ってそれを籠に入れるだけじゃ」
まさにだ。それだけになっているというのだ。
「実に容易な話じゃ。武田にとっては」
「では今川の家臣は武田につきますか」
「そうする者もおるじゃろうな」
「しかしそれだけではなく」
「その通りじゃ。してその者達こそが大事なのじゃ」
「今川につかぬとなれば」
「他は北条じゃな」
信長は相模のその家の名前も出した。
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