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戦国異伝

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第三十四話 今川出陣その三


「駿河は天下でも屈指の国だからな」
「その豊かさたるや凄いものだとか」
「米だけでなく蜜柑もありますし」
「どうやら茶もいけそうです」
「塩もありますな」
 とにかくだ。様々な特産品があるというのだ。しかもであった。
「町も栄えておりますし」
「あの国を手に入れれば武田殿はかなり豊かになられますな」
「間違いなく」
「だからその際は武田殿が動く」
 男は今は武田を念頭に置いていた。そのうえでの話だった。
「北条殿は関東をさらに攻められるからな」
「それで駿河は武田殿のものですな」
「そして遠江と三河ですが」
「その二国は」
「面白いことになろう」
 その二国に対してはだ。言葉を変えてきたのだった。
「よりな」
「といいますと」
「その二国では何が起こるというのですか」
「一体」
「我等の主が出るやも知れぬ」
 こう言うのであった。
「ひょっとするとな」
「我等のですか」
「仕えるべき主」
「その方が」
「そうじゃ。既に多くの大名がそれぞれの忍の者を抱えておる」
 話はだ。ここからだった。
「そうじゃな」
「確かに。既にです」
「多くの忍がそれぞれの大名に仕えています」
「しかし我等はまだ」
「その家がありません」
「さすればよ」
 男の言葉がここでさらに核心に入った。
「我等のその仕える家だ」
「それが何処だと」
「どの家だというのですか」
「一体」
「三河やもな」
 男はだ。その国の名前を出したのだった。
「三河に行くべきか」
「三河!?」
「三河といいますと」
「今川殿ではないですか?」
「違いますか?」
「そうじゃ。違う」
 違うというのだ。それはだ。
「今川殿ではない」
「では一体どの家ですか?」
「一体どの家だと」
「織田殿が勝たれるとなる」
 声達はここで考えた。織田と今川が戦いそうして織田が勝利を収めるならばだ。三河はどの家のものになるか。彼等の答えはだ。
「三河は織田家のものとなりますか」
「それでは我等は今から」
「織田家にですか」
「仕えると」
「そうだというのですね」
「違うな」
 こう言った。はっきりとだ。
「織田殿ではない」
「ではどの家ですか?」
「武田殿でしょうか」
 この家の名前が再び出た。
「武田殿が駿河だけでなく三河までも手中に収められる」
「それで、でしょうか」
「しかしです」
 ここで声の一人が男に述べた。 
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