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戦国異伝

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第三十四話 今川出陣その二


「今川殿は戦はどうか」
「戦ですか」
「今川殿御自身のですか」
「それについてですか」
「そうだ。それはどうか」
 このことをだ。周りに問うのである。
「今川義元殿は」
「御言葉ですが馬に乗るのも不得手ですし」
「戦になると雪斎殿が戦われています」
「それを見るとです」
「どうにも」
「そうじゃな。今川殿は政の方よ」
 それもかなりだ。そちらに傾いているというのである。
「それが問題になる」
「それに対して織田信長殿は」
「どうかというとですか」
「そちらは」
「あの御仁はそちらも秀でておられる」
 信長のその才も見抜いているというのである。
「戦もな」
「では今川殿はやはり」
「敗れるというのですか」
「兵の多さだけでは勝てはせぬ」
 確かに重要でもだ。それだけでは駄目だというのである。
「その他で負けていればだ」
「敗れますか」
「そうなると」
「少なくともわしは負けると見ている」
 男はだ。自信に満ちた声で述べた。
「そして問題はそれからよ」
「戦の後どうなるか」
「それがですか」
「問題というのですね」
「そうよ、織田殿が勝たれる」
 それからなのだった。男が見ているのは。
 彼は信長が勝ってそれで終わりとは見ていなかった。むしろである。
 そこからだというのだ。信長が勝利を収めてから。そこからが問題だというのである。
「ただ今川殿に勝たれるだけではない」
「そこからですか」
「大事なのは」
「これにより織田殿の名が高まる」
 そうなる、これも間違いないというのである。
「そしてそれが伊勢や美濃にも聞き及ぶ」
「無論それ以外の国にも」
「天下にもですな」
「それによりどうなるか。また敗れた今川殿はだ」
 その今川はだ。どうなるか。それも話すのだった。
「おそらく。終わりだろう」
「今川殿がですか」
「あの百万石の今川殿が」
「終わってしまいますか」
「百万石も終わる時は終わる」
 言葉には無常を見るものがあった。さながら祇園精舎の如く。
「人の築いたもので終わらぬものはない」
「だから今川殿もですか」
「百万石の大身であっても」
「そうよ、終わる時は終わる」
 また言うのだった。
「そして終わった時にだ」
「その後にどうなりますか」
「今川殿の後は」
「一体」
「駿河は武田殿か北条殿のものになろう」
 まずはだ。今川のその本拠地はそうなってしまうというのである。
「北条殿は関東への進出に忙しい。従ってだ」
「その際は武田殿ですか」
「武田殿が駿河を手に入れられる」
「そうなりますか」
「そうじゃ。これは武田殿にとっては大きい」
 駿河を手に入れる、そのこと自体がだというのである。 
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