戦国異伝
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第三十二話 結納その七
「あの町は多くの国から人が来ておったわ」
「大層賑やかだとか」
「凄いぞ。目が青い者が実際におる」
「南蛮人ですね」
「そうじゃ。髪は赤かったり金色でのう」
「何か天狗の様ですね」
「そうじゃな。天狗じゃな」
信長は帰蝶の今の言葉で気付いた。そのことにだ。
「南蛮人は天狗に似ておる。鼻が高く顔が赤くてじゃ」
「まさに天狗ですね」
「それにその髪もじゃ」
「髪もですか」
「もじゃもじゃとしておる」
そうしたところまで見てだ。妻に話すのである。
「鬼にも似ておるのう」
「そうですね。顔も赤いとなると」
「ごついしのう。しかしじゃ」
「しかし?」
「思うのはじゃ」
ここでだ。信長は彼等について。こうしたことも話した。その話すことは。
「髭は濃く身体中毛だらけじゃ」
「毛深いのですか」
「あれでは夏は暑いであろうな」
このことを話すのである。
「随分とのう」
「そうですね。毛深いとどうしても」
「少なくともわしはああして毛深いとじゃ」
どうなのか。信長は自分に当てはめて述べる。
「夏が辛いので勘弁願いたいな」
「左様ですか」
「そうじゃ。そしてじゃ」
「そして?」
「おなごもおった」
今度はその話だった。話を急に変えたのである。
「よいおなごもおった」
「左様ですか」
「むっ、反応がないのか」
帰蝶が全く動じないのを見てだ。信長は少し拍子抜けした。
そのうえでだ。いぶかしみながらこう述べたのであった。
「もっと。こうじゃ」
「嫉妬せよと仰るのですか」
「少しはそうしたところを見せると思ったがのう」
「生憎そうしたことはありません」
本当に動じていない。平然とさえしている。
その平然とした顔でだ。帰蝶はさらに話す。
「そもそも妻が何人もいる話なぞ何処にでもあります故」
「だからか」
「はい、だからです」
まさにその通りだというのである。
「それで誰が一番よかったでしょうか」
「それがのう」
困った顔で首を傾げさせながらの今の言葉だった。
「おらんかった」
「いなかったとは」
「だからじゃ。そこそこのおなごは一杯おった」
「そこそこでございますか」
「そうじゃ。そこそこじゃ」
また話す信長だった。
「とびきりのおなごはおらんかった」
「都にも堺にもですか」
「うむ、おらんかった」
信長のその言葉は続く。
「一人もおらんかった」
「左様ですか」
「結局じゃ。御主程のおなごはおらんかった」
「私ですか」
「御主が一番よ」
笑いながらだ。信長は妻に話す。
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