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戦国異伝

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第三十二話 結納その六


「そなたがな。妻でなければじゃ」
「左様ですか。私でなければ」
「だからじゃ。頼むぞ」
 笑顔で妻に告げ続ける。
「これからものう」
「末永く」
 こう言葉を交えさせてだ。新婚生活をはじめる二人であった。そしてだ。
 信長はだ。清洲に帰ってすぐに帰蝶のところに来た。そのうえで茶を飲みながら都や奈良の話をしていく。
 そしてだ。こんなことを言うのであった。
「色々観て回ったがのう」
「何かいいものはありましたか?」
「いいものは一杯あったぞ」
 それはだというのだ。満面の笑みで。
「これからのことを考えるうえでな」
「それはいいことですね」
「うむ、有意義なものだった」
「楽しくもあり」
「そうじゃ、確かに楽しかった」
 信長がまた言う。そしてだ。
 ここで傍にあった果物を食べる。そのうえでまた帰蝶に話す。
「甘いものもじゃ」
「ありましたか」
「尾張以上にな。砂糖もあったぞ」
「砂糖もですか」
「うむ、あった」
 それもだ。あったというのだ。
「あれは中々手に入らぬものじゃが」
「そうですね。まさにそれ自体が宝です」
「あれが簡単に手に入れば」
 袖の中で腕を組んでだ。こう言うのであった。
「かなり違うのじゃが」
「しかしそれは無理ではないでしょうか」
「この国で砂糖はか」
「はい、無理ではないでしょうか」
 また言う帰蝶だった。
「砂糖は。流石に」
「まあすぐには無理じゃな」
 それは信長も認める。すぐにはだというのだ。
「しかし。やがてはじゃ」
「それができるようになると」
「甘いものをより食えるようにすることも大事じゃ」
 そうしたことも言うのであった。
「砂糖もそうじゃし」
「果物もですね」
「その通りじゃ。果物の栽培をどんどんさけるのもいいな」
「蜜柑や葡萄を」
「梨もじゃな。果物といっても色々ある」
 酒を飲めぬだけあってだ。信長のそちらへの話は深い。そして確かだった。
「そうしたものを栽培させてじゃ」
「それはいいですね。ただ食べるだけでなく」
「それがまた国を豊かにする」
 そうしたことまで考えてのことであった。信長の政への思慮は深いのだ。
「だからこそな」
「そうですね。米だけではなくですね」
「米だけでは限度がある」
 信長は米だけにこだわらない。それも彼の考えの特色だった。
 そしてだ。さらにであった。
「実際。果物だけでなく」
「他のものもですね」
「茶にしろ紙にしろ。わしは飲めぬが酒もよい」
 それもだというのだ。
「酒もどんどん造らせて売らせるのじゃ」
「さすれば。国は余計に」
「よくなる。今尾張でもやっておるがな」
「胡瓜や胡麻がそうですね」
「左様じゃ。とにかく米以外のものも作ればよい」
 笑って妻に話すのだった。
「そして売っていけばのう」
「左様ですね。それは」
「堺もよかったしのう」
 今度はだ。堺の話だった。 
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