戦国異伝
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第二十七話 刺客への悪戯その五
「それに相応しいだけの」
「ではやがて織田殿は」
「尾張一国だけでなくですか」
「さらに力をつけられる」
「今以上にと」
「そうです。その時にもしや」
もしやと。言葉にしてだった。
「私と蛟龍は戦うかも知れません」
こう言うのであった。彼はそんな話をしながら上洛していた。そして信長はだ。刺客達のいる宿の前にだ。佐々と共に来たのであった。
真夜中だ。しかし信長はその暗がりの中でだ。楽しげな笑みを浮かべて後ろにいる佐々に対して述べるのであった。
「さて、それではだ」
「今よりですな」
「行くぞ」
こう佐々に告げた。
「よいな」
「わかりました。では」
佐々もだ。不敵な笑みを浮かべて主に返した。
そしてそのうえでだ。二人は同時に前に出た。そのまま宿の中に入る。
それからだった。その部屋の前に来た。するとその中から話し声が聞こえてきた。
「それではだな」
「うむ、今夜だ」
「今夜いよいよだ」
「織田のうつけのところに行きだ」
「けりをつけようぞ」
こうした話がだ。聞こえてきていた。それを聞いてだ。
信長は小声でだ。こう佐々に言ったのだった。
「面白い位に聞こえてくるのう」
「部屋の前ですから当然ではございませぬか」
「それでも無用心じゃ」
見ればだ。信長は咎めるようになっていた。そうして言うのだった。
「こうした話は聞かれてはならぬもの」
「それではですか」
「そうじゃ。最低限の小声で話すものじゃ」
そうだというのである。
「それなのにあんな声で話すとは何じゃ」
「自分達で教えているのと同じですな」
「三流じゃな」
刺客達の位も述べたのだった。
「所詮はな」
「三流でござるか」
「より下かも知れん」
信長の評価は辛辣だった。
「これではのう」
「ううむ、そうした連中では」
「わしを討つことなぞ夢のまた夢じゃ」
また辛辣な言葉を出す信長だった。
「義龍めはこうしたことには長けておらぬようじゃな」
「蝮殿は違いましたが」
「暗殺も芸のうちぞ」
「芸のうちでございますか」
「時として必要な時もある」
信長もそうした謀の必要性はよく認識していた。だからこそ今も伊勢に対して用意周到な調略を仕掛け続けているのだ。平手や森もまたそれを担っているのだ。尾張に残している老臣二人もだ。
「刺客を選ぶのもそれぞ」
「左様ですか。刺客も大事なのですな」
「そういうことじゃ。さて」
佐々にここまで話してだ。信長は姿勢を一旦整えた。
そうしてそのうえでだ。襖を一気に開けたのだった。
がらりという音がした。部屋の中の刺客達がその音に一斉に反応する。
「何じゃ!?」
「誰じゃ!?」
「わしじゃ!」
こうだ。刺客達に対して叫んだ。
彼は襖を開けたまま仁王立ちになっている。後ろには佐々が控えている。
信長は驚く刺客達にだ。こうも言った。
「わしの顔は知っておろう」
「ま、まさか織田が」
「織田信長がここで出て来るというのか」
「我等の前にか」
「これはどういうことだ」
「ふん、わしとてただ手をこまねいているだけではない」
それはないというのであった。
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