| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十一話 一喝その四


「何ごとも。そういうものですから」
「ですから何を」
 しかし信行の言葉は変わらない。
「仰っているのか。私はあくまで」
「あくまで。何だというのですか」
「尾張の為にです」
 こう言うのであった。
「こうしてあえて兵をおこし」
「尾張の為というのなら」
 しかしだった。帰蝶はまだ彼に言うのであった。
「本来の貴方ならばです」
「私ならば」
「兵をおこすことなぞしません」
 それはないというのだ。
「決してです」
「ですからあえてです」
「あくまでそう言うのですか」
「はい、何か私を疑っておられるようですが」
「疑いは晴れました」
「それは何よりです」
 信行は帰蝶の今の言葉には微笑んだ。しかしであった。
 帰蝶はだ。また彼に言ってきたのである。
「そう、今の貴方はやはり本来の貴方ではありません」
「それが疑いが晴れたと」
「そうです。そして」
 そして、と言ってだった。帰蝶はだ。
 薙刀を足元に置いてだ。弓を取り出してだ。
 それをきりきりと引きだ。一気に放ったのであった。
 放たれた矢は一直線に向かいだ。そして。
 信行の横を通り抜けてだ。そのうえで。
 彼の傍にいた男を貫いた。彼こそは。
「津々木、どうした」
「むう・・・・・・」
 津々木はその右肩を貫かれていた。その肩から血が流れている。
 しかし彼はまだ生きていた。その顔に苦悶の色を浮かべながらも。
 その彼を見てだ。帰蝶は残念な顔で言うのであった。
「外しましたか。失態です」
「まさか私を」
「貴方ですね」
 帰蝶は今度は津々木を見ていた。そのうえでの言葉だった。
「勘十郎殿を操っていたのは」
「!?操っていた!?」
 急にだ。その信行がだ。
 我に返ったような顔になってだ。そうして言うのだった。
「どういうことだ、それは」
「正気に戻られましたね」
「わからない、何故だ」
 その信行はだ。帰蝶の言葉を聞きながら呆然となっていた。
 その顔で周囲を見回しながらだ。こう言うのであった。
「何故私が清洲を攻めている。兄上に叛旗を翻して」
「それは後でお話しましょう。ですが」
 帰蝶は今は信行よりもだ。彼を見ているのだった。
 津々木を見てだ。そうして彼に告げるのだった。
「勘十郎殿を操っていましたね」
「くっ、まさかそのことに」
「次は外しません」
 見据えていた。鷲に似た光を放っていた。
「何としてもです」
「ここは」
「覚悟するのです」
 帰蝶は再び矢をつがえていた。そうしてまた放とうとする。
 しかしそれよりも前にであった。津々木は。
 突如として姿を消した。まるで煙に様に。
「消えた!?」
「まさか」
「一体何処に」
「行ってしまったというのだ」
 帰蝶の周りの旗本達も信行の足軽達もだ。誰もが驚いた。
「あの者まさか」
「あやかしか」
「何だったというのだ」
 誰もが浮き足立つ。しかしだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧