戦国異伝
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第二十一話 一喝その三
「私がそこから出ます」
「奥方様がですか」
「御一人で」
「はい、私一人で出ます」
まさにだ。彼女一人でだというのである。
「わかりましたね。今からです」
「そして勘十郎様と会われますか」
「津々木とも」
「それで見ましょう」
見るともだ。彼女は言った。
「この戦は一体何なのかを」
「それもですか」
「その為にもですか」
「あえて正門を」
「いいですね」
反論は許さない。そうした言葉だった。
「では今より」
「はい、それでは」
「開けましょう」
皆このことには従った。しかしであった。
同時にだ。こう彼女に告げるのであった。
「しかしです」
「御一人では駄目です」
「それはあまりにも危険です」
それはだというのだ。これが彼等の引けぬところであった。
「奥方様に何かあってはなりません」
「ですからここは」
「我等もまた」
「御供させて下さい」
今度は彼等が許さなかった。それを受けてだ。
帰蝶はだ。一旦その琥珀の如き瞳を閉じ再び開いてからだ。こう彼等に告げた。
「わかりました。それではです」
「有り難うございます。それでは」
「我々もまた」
「参りましょう」
一人で行くことはだ。それは諦めたのであった。
「正門に」
「では今より開けます」
「勘十郎様が率いられる主力はそこにあります」
「さすれば」
「丁度いいです。では」
こうしてであった。その正門が開かれる。その門が開かれたのを見てだ。信行の軍勢の足軽達がだ。いぶかしみながら声をあげるのであった。
「何だ、うって出るのか?」
「城にそんなに兵が残っていたか?」
「いや、そんな筈がないが」
「じゃあどうしてなんだ?」
「さてな」
彼等がいぶかしんでいるとであった。彼等にとって思わぬ者が出て来た。右手に薙刀を持ち立っているその姿を見てだった。
信行の足軽達はだ。その足を本当に止めてしまったのだった。
「なっ、奥方様!?」
「奥方様御自ら出てこられたぞ」
「これは大変だぞ」
「ああ、とんでもないことだ」
足を止めてだ。それぞれ顔を見合わせて言い合うのだった。
「奥方に弓を引くことなぞできるか」
「槍を向けることもだ」
「できる筈がない」
「そんなことはだ」
それは正門のところにいる者達だけではなくだ。信行の軍全てに及んでいた。帰蝶が出ただけでだ。彼等はその動きを止めてしまったのだ。
そして帰蝶はここでだ。こう言うのであった。彼女の左右達には旗本達がいる。
「勘十郎殿、おられますか」
「お呼びでしょうか」
すぐにだ。信行が出て来た。そのうえで彼女の言葉に応えるのだった。
「それで」
「はい。一度お顔を見たいと思っていました」
己の前に、堀をまたぐ橋を挟んで向かい側にいる信行を見てのだ。そのうえでの言葉だった。
「貴方の。今のお顔をです」
「私のですか」
「はい。思った通りです」
その顔を実際に見てだ。こう言ったのであった。
「やはり今の貴方は」
「仰る意味がわかりませんが」
「自分ではわからないことです」
そうだというのであった。
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