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戦国異伝

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第二十話 信行謀叛その九


「ですから」
「それでは」
「すぐに」
 こうしてであった。帰蝶はすぐに着物を脱ぎだ。具足姿になった。そして陣羽織も羽織る。青い鎧と紅の陣羽織の姿になってだ。そのうえで言うのであった。
 薙刀を手にしてだ。彼女は言った。
「それではです」
「今よりですね」
「篭城してそのうえで」
「勘十郎様の軍と」
「そうです。そして」
 こう告げてからだ。さらに話すのであった。
「権六殿達は何処に」
「はい、あの方々は後詰になっておられます」
「勘十郎殿の軍の」
 このこともだ。帰蝶に対して告げられたのであった。
「そうしてそのうえで、です」
「こちらに向かっておられます」
「そうですか。やはり」
 それを聞いてだ。帰蝶は静かにこう述べるのであった。
「勘十郎殿からは遠ざけられていますね」
「武の要である権六殿をです」
「そして智謀の士である新五郎殿と弟殿も」
「思えば妙なことであります」
「全くです」
「その通りですね。有り得ないことです」 
 そのことについては帰蝶も同意であった。そうしてだ。
 彼女は考える顔になってだ。強い声でこう述べた。
「それではです」
「はい、それでは」
「どうされますか」
「おそらく勘十郎殿のお傍にはあの男がいます」
 こう述べるのであった。
「津々木蔵人がです」
「あの者が」
「見たことはあります」
 帰蝶の表情がまた変わった。今度は曇った顔になった。
 その顔でだ。彼女はこうも言うのだった。
「妖しい男です」
「妖しいですか」
「そうだと」
「殿ならまず近付けません」
 それは絶対にないというのだ。
「何があろうとも」
「そうですな。殿はそうしたものをよく見られます」
「ですから」
 信長の人を見る目は間違いがない。このことは家臣達の誰もがよく知っていた。だからこそ誰もがここでこう言うのであった。
 そしてそれと共にだ。信行についても話をするのだった。
「勘十郎様もですが」
「あの方も人を見る目は確かです」
「それでどうして」
「あの様な者を」
「どうやら」
 ここでだ。帰蝶もまたこう言うのだった。
「術を使ったようですね」
「術をですか」
「それを使ってそうして」
「勘十郎様を」
「おそらく遠ざける前にかけられたのでしょう」
 それでだというのだ。それが帰蝶の見方であった。
 そのことを踏まえてだ。彼女はさらに話すのであった。
「従ってここはです」
「はい、ここは」
「どうされますか」
「その津々木を討ちます」
 彼女もまたこう言うのだった。
「弓が必要ですね」
「そういえば帰蝶様は弓も使われますね」
「鉄砲もまた」
「鉄砲の方がいいでしょうか」
 帰蝶は家臣の一人が鉄砲を話に出したのを受けてそちらにも考えを向けた。 
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