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戦国異伝

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第二十話 信行謀叛その五


 彼はその話を聞いてだ。静かにこう言った。
「やはり勘十郎ではないな」
「左様ですな。平素のあの方はそうしたことはされません」
「金で人の心を掴もうとなぞはされません」
「ではやはり」
「あの男しかおらんわ」
 信長は吐き捨てるようにして述べた。
「津々木、あ奴じゃ」
「そうとか考えられませんな」
「あの男に篭絡されているか」
「術に陥っているか」
「勘十郎を篭絡なぞできん」
 信長はここでは言い切った。
「あの者はそこまで愚かではない。人の話を聞き分けられる男ぞ」
「では術ですか」
「どうした術かはわかりませんが」
「それを使いですか」
「そうして」
「兵達は狙うな」
 信長は言った。
「そして勘十郎もじゃ。敵は別におる」
「津々木ですな」
「やはりあの男ですね」
「ではここはです」
「あの男ただ一人を狙い」
「そうして」
「わしが出る」
 信長はまた言った。
「その時になればだ。わしが出る」
「そうしてですか」
「この戦を終わらせると」
「そうされますか」
「無駄に兵を失うことはない」
 信長はだ。そのことを最も嫌っていた。
「大事な兵じゃ。この様な戦で一兵も失ってたまるものか」
「そして勘十郎様も」
「そうだというのですね」
「その通りじゃ。失ってはならぬ」
 また言う信長だった。
「何があろうともじゃ。だからこそ勘十郎も死なせぬ」
「津々木だけを」
「そうして」
「そういうことじゃ。しかしあの男」
 津々木のことをだ。忌々しげに言うのだった。
「素性もわからぬ。どれだけ調べてもな」
「どの国に生まれたか全くわかりませぬ」
「何時生まれたのかもです」
「そして生い立ちもです」
 家臣達もだ。誰もがこう言う始末であった。
「何もかもがわからないとは」
「一体どういった者か」
「それが奇怪です」
「黒い闇の色の服か」
 信長は今度は彼がいつも着ているその服の色について考えた。
「あれじゃな」
「あの服はどうしても」
「異様なものにしか思えません」
「あの様な服を常に着ているとは」
「そもそも何者なのか」
 こう信長に言っていく家臣達だった。
「そうしたことも考えますと」
「あの男、このままにしておくのはです」
「あまりにも危険です」
「ですからやはり」
「成敗するしかない」
 またこう言う信長だった。
「やはりな」
「そうですな。それでは」
「敵は津々木一人」
「奴の首だけを狙いましょう」
「そうしていく。それではだ」
 今は美濃に向かうふりをする信長達だった。それを見て美濃の者達も動いた。しかし竹中はその両軍の動きを見比べて言うのだった。 
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