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戦国異伝

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第二話 群星集まるその十三


「ですから三好殿が勝たれるでしょう」
「左様ですか」
「しかしです」
 ところがだった。明智はここでさらに言うのであった。
「それだけではありません」
「それだけではないというのですか」
「三好殿の家臣の松永久秀という御仁は御存知でしょうか」 
 こう話すのだった。
「その方を」
「確かあれですね」
 ここで細川は言った。
「大和の方にいる。その出自はわかりませんが」
「はい、出自はわかりません」
 明智もであった。それは知らなかった。
「ですがそれでもです」
「かなりの人物ですか」
「これは気のせいでしょうか」
 不意にだ。明智の顔が暗くなった。そのうえでの言葉だった。
「その松永殿には魔性を感じます」
「魔性をですか」
「はい、それをです」
 感じるとだ。こう話すのであった。
「不気味なものを感じます。ただ秀でているだけではないでしょう」
「そもそも素性が全くわからないというのは」
「戦国の世とはいえおかしなことです」
 明智は腕を組んで述べた。
「何者なのでしょうか、まことに」
「明智殿がそう言われるとは」
「おかしいですか」
「明智殿は今まで全て的確に見抜かれました」
 明智のその知恵を見ての言葉である。
「そして情報を集めるのはとりわけ得意とされています」
「有り難き御言葉」
「しかし。その明智殿が御存知ないとは」
 細川の言葉がさらに怪訝なものになる。
「面妖なことこのうえありません」
「この松永殿、注意して見るべきかと」
「わかりました、それでは」
「それではですが」
「それでは?」
「これから如何されますか?」
 穏やかな口調で細川に対して問うたのである。
「これからですが」
「そうですな。まずはです」
 細川は明智の言わんとしていることを察していた。そのうえで答えたのだった。
「茶でも飲みますか」
「茶をですね」
「茶道ですな。あれを楽しみましょう」
 この頃とみに広まっているものであった。次第に大名やその家臣達にも伝わってきている。中には高価な茶器を手に入れている者もいる。
「これから」
「はい、それでは」
「そしてです」
 細川はさらに言ってきた。
「それからですが」
「どうされますか」
「暫く見させてもらいましょう」
 細川は思わせぶりに笑ってこう述べた。
「今は」
「そうされるというのですね」
「はい、それから決めても遅くありません」
 これが細川の考えであった。
「どうするべきか」
「わかりました、それでは私も」
「明智殿もそうされますか」
「そう考えています」
 これは明智も同じだった。彼もそう考えていたのである。
 そのうえでだ。彼はまた話した。
「ただ。織田家ですが」
「その尾張ですね」
「雄飛するかも知れません」
 またこう言うのだった。
「その可能性は秘めています」
「そうですね。しかし武田に長尾」
「はい」
「北条に伊達、毛利に長宗我部もいますし」
「島津にと。群雄に大きな力を持つ者が出て来ました」
 語る明智の目が鋭く光る。
「動きますね」
「動きますか」
「天下は大きく動きます」
 彼は見ていた。そこまで。
「ただ。それを動かすのが誰かということですが」
「そうですね。都に一番近いとなるとその細川様ですが」
「細川様は敗れます」
 このことが再び話される。
「これは最早です」
「決まりですな」
「そして三好殿がわかりませんので」
「近畿が最も流れがわかりませぬか」
「そうなります。本願寺の勢力もありますし」
「読みぬくいですな」
 細川は思わず言ってしまった。
「今は」
「はい、どうなるかわかりません」
 明智も細川のその言葉に応えて述べる。
「しかしそれでもです。やがて一人の下に星達が集うでしょう」
「星達がですか」
「日輪の下に」
 そこにだというのである。
「集うことになります」
「では光秀殿はそれが織田殿だと思われているのです」
「一度見極めたいと思っています」
 その考えを隠さなかった。
「是非共」
「ではその時は私も」
「御一緒して頂けますか」
「是非。その時は大和の筒井殿もお誘いしましょう」
「はい、それでは」
 こう話をするのだった。今は彼等は吉法師という人物を見ているだけだった。しかしそれでも感じ取ってはいた。戦国の世に日輪が生まれようとしていた。


第二話   完


                2010・6・27 
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