戦国異伝
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第二話 群星集まるその十一
「かなりのものじゃな」
「そうか?」
彼の隣にいた彼によく似た、だが温厚そうで背は彼より高い少年が応えてきた。
「駿河とかと比べたら」
「全然違うか」
「駿河は凄かったじゃないか」
彼はこう若者に言うのだった。
「もうこんなものじゃなくてさ」
「まあ確かにそうじゃな」
それは若者も認めた。
「まだな」
「まだなのかい」
「駿河、特に駿府はかなり凄かった」
「ほらな、あっちの方が凄かったじゃないか」
「まさに小京都」
この頃応仁の乱の戦乱から逃れた公家達が各地に落ち延びていた。今川家の本拠地である駿府もそれは同じで義元は彼等の影響を受けて駿府を京風の街並みにしていたのである。それは見事な街並みである義元の誇りでもあった。
二人はその駿府を見ていたのだ。そのうえでの話だった。
「それと比べたらとてもさ」
「確かに駿府は凄いさ」
若者はまた言った。
「けれどあれが限度だろうな」
「限度か」
「あれ以上は大きくならん。今川様もな」
「ああ、そうだよな」
このことには少年も頷いた。
「今川様は駿河に遠江、そして三河も手に入れられようとしているけれど」
「三河で終わりじゃ」
若者は言い切った。
「それで終わりじゃ」
「そうだよな。それ以上は伸びないよな」
「しかしこの街を見ているとじゃ」
「違うんだな」
「ああ、もっともっと大きくなる」
そうだというのだった。
「こんなものでなくな」
「そして尾張もか」
「ここの殿様は大きくなるぞ」
「おおうつけって評判だよ」
吉法師のこのことは既に知られていた。
「それでもなんだ」
「うつけだから余計にいいんだよ」
「余計に?」
「ああ、この世の中の常識に捉われないからな」
だからいいというのだ。
「それだから。うつけであればあるだけいいんだよ」
「そんなものかな」
「それを言ったら武田や長尾の殿様はどうなるんだ?」
若者が話に出したのは今天下に名を轟かせんとするその二人だった。
「あの殿様達は」
「ああ、どちらも相当厄介な御人だったらしいな」
少年はこのことも知っていた。晴信にしても影虎にしてもだ。実は子供の頃は癖がありそれで父に嫌われていたり寺で悪小僧だったのである。
「そういうことか」
「そういうことだよ。うつけならうつけであるだけ器が大きいものなんだよ」
「そういうものかな」
「そういうものだよ。わかったな」
「わからないな」
だが少年はこう言うのだった。
「そりゃあの人達は素質が凄かったけれどさ」
「ここの殿様だってそうさ」
「だといいけれどさ」
「街を見ればわかる。かなりいい街だよ」
若者はいぶかしむ少年に対して今度は街を見て述べた。
「治安はいいし活気もあるだろ」
「ものも多いね」
「いい街だろ?いい殿様かどうかは街に田を見ればわかるからな」
「そういえばここまで来る中で田も」
「この殿様の国はよかっただろ?」
「ああ」
その通りだと答えた。
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